『価値づくり』の研究開発マネジメント 第369回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(216): KETICモデル- C:Curiosity(好奇心)(6)
好奇心は何によって生まれるのか(6)
(2025年11月25日)
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今回も、前回に引き続き「好奇心は何によって生まれるのか?」の議論を続けていきます。今回から、「第2ステップ:学習」において正の予測誤差を生み出すには、どのような工夫があるかを考えてみたいと思います。
●正の予測誤差を生み出す工夫(その1):これからする行動に対し低い期待値をもつ目標を複数、束で設定する
〇期待値を低く設定すると
「第2ステップ:学習」で正の予測誤差(=実際の達成値-期待値)を生み出すには、期待値を下げれば良いと簡単に考えてしまいますが、そう簡単ではありません。期待値を低く設定すると;
「第2ステップ:学習」において;
実際の達成値(中)-期待値(低)=予測誤差(正)
※:期待値(低)なので、それを上回る達成値が可能となるので、実際の達成値(中)としている。
となり、たしかに正の予測誤差が発生しやすくなります。
しかし、
「第1ステップ:最初の動機付け」において;
期待値(低)(×達成確率(高))=ワクワク感(低)
となり、ワクワクせず、そもそも第1ステップで最初の動機付けのためのドーパミンが分泌されません。
〇期待値を高くすると
それではちなみに、期待値を高く設定するとどうなるのでしょうか?
第2ステップにおいて;
実際の達成値(低)-期待値(高)=予測誤差(負)
※:期待値(高)なので、それを実際の達成値はそれを下回る可能性が大きいので、実際の達成値(低)としている。
となり、もちろん正の予測誤差が発生しにくくなります。そして;
第1ステップにおいて;
期待値(高)×達成確率(低)=ワクワク感(低)
となり、ワクワクせず、最初の動機付けのためのドーパミンが分泌しない。
〇期待値を中にすると
上の2つの議論から、期待値は低くても、高くてもだめということになります。そこで、期待値は低くも高くもない「中」で考えてみると、
第2ステップにおいて;
実際の達成値(中)-期待値(中)=予測誤差(正?負?)
第1ステップにおいて;
期待値(中)×達成確率(中)=ワクワク感(中?)
ここでの重要な点は、そもそも「中」とは何だということです。また予測誤差が正になるような「中」が存在するのか?行動を促す「中」のワクワク感が存在するのか?ということも疑問です。言葉としては、低すぎず、高すぎない期待値を設定しなさいと言えても、どのような期待値なのか、そうすれば、正の予測誤差やわくわく感が本当に生まれるのかは、極めて曖昧です。
〇解は、低い期待値を持つ目標を複数、束で設定することにあり
この問題を確実に解消する方法が、低い期待値を持つ目標を複数、束で設定することです。
1つ1つの目標の期待値は低いのですが(そのため達成確率も高い)、それが複数で束になると;
第1ステップでは;
期待値は「合算」されますので、全体の期待値は高くなります。つまり、「これをやると、いろいろなことで良いことがあるかもしれない」と思うことで、総体としての期待値は高まります。
Σ期待値(低)=総体としての期待値(高)
一方で、それぞれの目標の達成確率は、期待値が低いので、高くなります。そのため;
総体としての期待値(高)×達成確率(高)=ワクワク感(高)
となり、その結果第1ステップでは、ドーパミンがきちんと発生します。
第2ステップでは;
個々の目標においては、もともと期待値が低いので実際の達成値が期待値以上になる確率は高いと思います(そのため、下の式では実際の達成値(中)としている)。つまり;
実際の達成値(中)-期待値(低)=予測誤差(正)
となります。その結果、第2ステップではきちんとドーパミンが分泌されることになります。
(浪江一公)
