『価値づくり』の研究開発マネジメント 第356回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(203): KETICモデル-思考(145)
「発想のフレームワーク(80):隣接可能性とは(8):隣接可能性促進法(6)」
(2025年5月26日)
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今回から隣接可能性を促進する方法として、MECE(ミーシー)について議論していきたいと思います。
●既存のニューロンに蓄積された個別の情報を出発点に連想を促す(第351回・第352回参照)
ここまで4回にわたりマインドマップの議論をしてきましたが、マインドマップの連なりの関係性はどのような関係性でもかまいません。その言葉や文章にヒントを得て、ある意味「自然」と連想される言葉や文章を連ねているだけです。
●連想を行う頭の中の活動の2つのルート
一方で、「自然」にではなく、発想者が「主体的」に連想をする方法もあると思います。その議論をするために、私が人間が連想するに存在すると考える以下の2つのルートについて考えてみたいと思います。
〇頭の中の記憶に基づく連想
人間は複数の要素から構成される記憶を、何の脈略もなく構成することができます。それは自分が道で転んだ時に、寒い日だったという記憶があるとすると、「転ぶ」と「寒い日」には何の関連性もありませんが、「転んだ日は本当に寒かった」という記憶が作られています。これは脳科学的いうと「転ぶ」の部分をつかさどるシナプスと「寒い」と感じるシナプスが同時に発火したことで、何の脈絡もない2つの事象が関連づけられて記憶されているというものです。その他の例として、高校生時代に流行った音楽を聞くと、高校生の時代のある情景が頭の中で明確に再現されるということは、誰しも経験していることと思います。なぜそのような記憶が構成されるかと言うと、なんの脈略もないのに、その当時自分が経験していたことと、よく聞いていた音楽が頭の中で同時に発火し、セットで記憶されているからです。
〇論理的流れでの連想
もう一つは、論理の流れで連想するというルートがあります。「ボールが転げ落ちる」情景に遭遇し、その後に「ボールが転げ落ちる」の理由、すなわち「なぜか?」を考え、「坂だから」という原因に至るのは、論理による連想です。
これまで議論してきた、マインドマップにおいては、上の両方の区別をあまり意識せずに、頭の中で連想するということをやっていると思います。
また前回議論した、マインドマップ作成におけるAIは、上の人間の場合には過去に同時に起こった事象の「頭の中の記憶に基づく連想」に基づいているのですが、AIは「ネット上の情報での関連性の頻度から統計的に連想している」というもので、原理的には同じものと言えると思います。
だとすると、後者の「論理的流れでの連想」するルートだけに焦点を当てて、主体的に連想するということにより、より多くの事象を連想することができます。またそれは、AIが持っていない思考能力を活用するということでもあります。AIは一見思考しているように見えますが、膨大のデータの中から同時出現の頻度から統計的に想定しているにすぎません。
連想する時に論理的に連想するなんらかのパターンがあれば、連想の範囲は限定されるかもしれませんが(すなわち上の「〇頭の中の記憶に基づく連想」が除外される)、連想を「自然」に思い付いたものではなく、「主体的」に連想できれば、連想をより広げていくことが期待されます。そのパターンを示したものにMECE:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive (だぶりなく、もれなく)があります。MECEはよく思考の整理法として利用されますが、MECEには論理に基づき連想するパターンが明確に組み込まれていて、極めて有効な連想ツールです。
次回からこのMECEについて議論をしていきたいと思います。
(浪江一公)