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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第354回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(201): KETICモデル-思考(143)
「発想のフレームワーク(78):隣接可能性とは(6):隣接可能性促進法(4)」

(2025年4月14日)

 

セミナー情報

 

今回も前回に引き続き、隣接可能性を促進する方法として、マインドマップの活用について議論をしていきたいと思います。

〇マインドマップ(続き)
-その場にいない人の知恵を活用する
これは前回議論をしたマインドマップ作成に向けての「複数メンバーでの作業」の拡大版ですが、一度マインドマップに図をして表すことができれば、別の機会に初回の議論の場に参加していない他の多くの人達の知識を広く活用することができます。これは極めてパワフルです。

議論の場に参加できる人は、時間的(時間の問題で当日の議論に参加できない)、空間的(場所の問題で議論に参加できない)、組織的制約(別部門、別会社、ヒエラルキーの問題からその議論に参加してもらうことができない)から極めて限定されてしまいます。また一度に大人数の人と議論するのは、あまり効率的ではありません。しかし、個人や複数のメンバーで作成した図を別の機会に、マインドマップ作成に参加していなかった他の人達に見せ、説明することで、その人達の知恵に基づき、マインドマップの樹を広げることができます。

その際、マインドマップはそれまでの思考の形跡がそこに記されていますので、その思考を別の人が見てもたどり易いというメリットもあります。

その場にいない人の知恵を効果的に活用する、活用できるようにする工夫として以下があります。

・日頃から組織の左右、上下の壁を低くしておく

実は皆さんの会社の中には様々な経験や知恵を持った人達がいます。様々な機能を担う部署があるのですから、それぞれの機能に精通した人達がいます。また組織の上部には、より広い経験や視野を持った管理職や経営幹部がいます。それらの人達の経験・知恵を活用しない手はありません。そのために、社内の経験・知恵を活用できるような関係性を持つ文化を社内に醸成することは重要です。

もう30年も前のことですが、その当時私が勤務していたコンサルティング会社のクライエント企業に日本人であれば誰でも知っている大手有名企業(当時数万人の社員がいたと思います)のR社がありました。そのコンサルティング会社で私ではなく別の担当者がそのR社を担当し、あるプロジェクトを進めていましたが、私はその担当者に呼ばれR社の研究開発部門の「若手」グループとの議論に参加し、驚いた経験があります。

その議論は極めてカジュアルな雰囲気で、会議室ではなく、研究所のロビーのテーブルとイスで行われていました。その議論の中であることが課題であることがわかり、メンバーの一人が「それじゃ、〇〇さん呼んでこいよ」というと、若手グループの中でも最も若手の研究者がその〇〇さんを呼んできて、その〇〇さんは、「君たち、どうしたんだ」という気楽な感じでその議論に参加したのです。実はその〇〇さんは、当時研究開発本部長兼常務で、そして更に、なんとその1か月後にR社の社長に就任されました。そのようなシニアなポジションの人が、若手の議論にカジュアルに参加するということに驚きました。(ちなみに〇〇さんは、その後会長を経て、経済同友会の代表幹事になられました。)

この例はマインドマップ活用の例ではありませんが、イノベーション実現に向けてこのような文化を社内で醸成できれば、社内に広く存在する経験・知識・知恵をおおいに活用することができます。

このような組織文化や仕組みを意図的に築いてきた企業に、3Mがあります。3Mでは、組織を超えてのコミュニケーションや協力関係を奨励するために、15%ルールやブートレッギング(密造酒づくり)という仕組みを設けています。15%ルールは、だれでも自分の時間の15%ぐらいを目安に、自由に好きなことに使って良いというものです。またブートレッギングは、その自分の時間の活用について上司に申告しなくて良いというものです。この仕組みにより(また他部門への協力はきちんと評価されるという仕組みにより)、3Mの社員は、他部門に協力するということをするようになります。

次回もこの議論を続けていきます。

(浪江一公)