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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第350回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(197): KETICモデル-思考(139)
「発想のフレームワーク(74):隣接可能性とは(2):隣接可能性のメカニズム」

(2025年2月17日)

 

セミナー情報

 

今回も前回(第349回-2025年2月3日)に引き続き、隣接可能性について議論をしていきたいと思います。

前回の議論の一番最後で、イノベーションを起こすに重要なのが、
〇最初の片割れに触発されるというのはどういうことなのか?
〇どうしたら触発の頻度を高めることができるのか?
を考えることだとお話をしました。

この2点を考えるために、まずは、どう情報が頭の中に蓄積されるのか、また触発とはどのようなメカニズムで行われるのかについて、多少脳科学的に考えてみたいと思います。

●記憶のメカニズム

人間は何か新しいモノやコトに遭遇すると、脳の中でその情報を五感や言語、感情や経験に関わる部分に分解・整理し、脳の中のそれぞれをつかさどる領域にあるそれ専用のニューロンとシナプスを利用して、蓄積します。

たとえば、赤ちゃんがリンゴを初めて経験しその表面をなめてみた時、それを「お母さんに差し出された」「赤い」「つるつる」した「表面はちょっと固いつるつるした少し弾力のある」「口に入れると美味しそうな」「球体」という情報などに遭遇します。赤ちゃんの脳は、リンゴとそのリンゴに遭遇した経験を「 」で記述したような要素に分解・整理し、その情報をそれぞれの要素をつかさどる脳の領域、具体的には大脳皮質(知識)、海馬(経験)、偏桃体(感情)などの中のニューロンに別個に蓄積します。

加えて、脳の中では、それらそれぞれの領域の中のニューロンに蓄積された情報要素は、各ニューロン間のシナプスによる結びつきにより関連付けられ(ネットワーク)、「お母さんに差し出された」「赤い」「つるつる」した「表面はちょっと固いつるつるした少し弾力のある」「口に入れると美味しそうな」「球体」という情報全体は、ネットワークとして蓄積されます。

そして、その赤ちゃんがまた次の機会に再度リンゴに遭遇すると、そこで得られた新な情報は、すでに蓄積された上のリンゴに関わるネットワークに付加されたり、修正されたり、結びつきが強化(それにより思い出しやすくなるなど)されることで、全体のネットワークは進化・拡大していきます。(逆に、リンゴに遭遇する機会がないと、各要素間シナプスの結びつきが弱くなるということも起こりますが。)

このように、遭遇した情報はそれを構成し、また関連する情報要素のネットワークとして脳の中に蓄積され、またその後の学習や経験により、そのネットワークは修正し、拡大し、また強化されます。

●脳における触発の意味:スプレッディング・アクティベーション

次にある情報により触発され、何かを思い出したり、気づきを与えるプロセスは、どのようなものなのかを考えてみたいと思います。

上で説明したように情報は脳内の別個に蓄積された要素のネットワークとして存在していますが、人間の脳はネットワークを構成するその中の一つの要素が活性化されると、そのネットワークを構成する他の要素も活性化することがわかっています。この機能には、スプレッディング・アクティベーション(Spreading Activation)という名称がつけられています。

具体的には、リンゴの例で言えば、何かの機会に赤い玉の絵を見ると、頭の中に過去にリンゴに遭遇した時に蓄積された「赤い玉」をつかさどるニューロンが刺激を受け(活性化)、同じように頭の中にリンゴのネットワークとして「赤い玉」と共に蓄積されているリンゴの映像や甘酸っぱい味が、一緒に想起(活性化)されます。

次回もこの議論を続けていきたいと思います。

(浪江一公)