『価値づくり』の研究開発マネジメント 第334回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(181): KETICモデル-思考(123)
「発想のフレームワーク(66):思考の頻度を高める方法(36) 妄想のすすめ(6)」
(2024年7月1日)
今回も、妄想を積極的に促す方法の議論を、続けたいと思います。
●妄想を積極的に促す方法(その12):妄想が生み出す恩恵や利益を具体的かつ広く妄想する
ここでの議論はまさにイノベーションを起こすために妄想の方法を議論しているのですが、残念ながら妄想がすぐにイノベーションを生み出すことはありません。確率的に言うと何百、何千、何万の妄想の中から、一つのイノベーションが生まれるという程度です。したがって、妄想の目的をイノベーションを起こすという抽象的で迂遠な目的とするのでは、なかなか妄想の持続性が生まれません。もちろん理想的には「妄想を楽しむ」というレベルに達すれば良いのですが、現実にはその境地に行きつくことは難しく、そこにはなんらかのプロセスが必要です。
そこで、常に妄想しっぱなしではなく、あわせてその妄想が生み出す具体的な恩恵や利益を、それこそ広く妄想することを習慣付けることも重要ではないかと思います。たとえば新大陸を発見したコロンブス。コロンブスは、欧州から西に行けばアジアへもっと短期間で安全に行き着くのではと妄想しました。その当時地球は丸いということは分かっていたそうですが、地球上の海洋や陸地の姿はわかっていませんでしたので、まさにコロンブスがしたのは妄想と言えると思います。
コロンブスは、より具体的に、そして広くどのような利益や恩恵があるのかを考えたと思います。思いつきのきっかけは、もちろん経済的利益だったと思います。アジアの国にもっと短期間で安全に行くことができれば、その交易品から莫大な利益を上げることができます。しかし、コロンブスにとっての利益や恩恵はそれだけではありません。キリスト教を世界に広く布教する機会が得られること。また地球の海洋と陸地の構造を科学的に明らかにすること。そして、その結果として名声と栄誉を得ること(実際に、新しいアジアへの航路を発見することで、コロンブスはその後の歴史に名を残しました)。
加えて、このように具体的に広くイノベーションの恩恵や利益を考えることで、そして多少とも可能性があるのであれば、実際にその妄想を実行に移すエネルギーも生まれます。この点も極めて重要です。
●妄想を積極的に促す方法(その13):大胆な仮定で考える
そもそも妄想の定義からして、単にいろいろ考えるでは妄想にはなりません。妄想は大胆でなければなりません。大胆に考えるからこそ、今まで誰も考えなかったアイデアが生まれるのです。したがって、常に「大胆に考えよう」という姿勢が必要です。
それでは大胆に考えるとは、どのようなことを言うのでしょうか?大胆に考えるとは、なぜ今まで他人は考えなかったのか?を考えてみる。以下を常に頭の中におき、妄想の機会を探りましょう。
〇合理的・科学的に実現できないと考えられていること
従来の科学的知識では、実現できないと考えられている。また現時点の知識で合理的に考えると、在りえないこと。従来の科学的知識やその合理性の前提が間違っているかもしれません。
〇危険やリスクが大きいため実現できないと考えられていること
まさに上のコロンブスのアジアへの新航路発見のアイデアは、この項目に該当します。しかし、それら危険やリスクを回避する方法や、その危険やリスクをおかすに値する大きなリターンがあるかもしれません。
〇社会的・道徳的にしないことが常識となっていること
社会的や道徳的な常識から理由もなくしてはならない、しないということは、世の中に沢山あります。日本にいると実感しにくいことですが、まさに宗教上の制約や前提などは、この例に当たると思います。歴史的にも、多くの科学的発見が、宗教界の常識に反して、もしくは強い抵抗に抗して生まれてきています。その点から言うと、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンドゥー教といった社会に強く影響する宗教のない日本人は(中国人や韓国人なども同様と思いますが)、本来的により妄想をしやすいともいえるのではないかと思います。(一方で、科学的な発見や発明が、歴史的にこれらの宗教が社会の多くを規定する国で多く生まれてきているという事実もあるのですが。宗教上の教義の反対を行くと、イノベーションが生まれやすいという側面があるのかもしれません)
〇理由は不明だがなぜか誰もしなかったこと
世の中には、「してはならないこと」・「そんなことはしない」・「そんなことはできない」は、沢山あります。しかし、それらの根拠が不明の常識は、イノベーション創出のきっかけの宝庫と言えます。
(浪江一公)