『価値づくり』の研究開発マネジメント 第333回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(180): KETICモデル-思考(122)
「発想のフレームワーク(65):思考の頻度を高める方法(35) 妄想のすすめ(5)」
(2024年6月17日)
今回も引き続き、妄想を積極的に促す方法について、考えてみたいと思います。
●妄想を積極的に促す方法(その8):頭の中でショートストーリーを考える
通常妄想と言うと、現実にはありえないストーリーを頭の中で勝手に考えることと捉えられることが多いのですが、ストーリーと言っても、長いストーリーを作ることは大変です。そこで、長くなくても場面ごとのごく短いその場だけについての、面白いストーリーを考えてみることは、妄想に有効な方法と思います。
私の例で恐縮ですが、昨年友人と福岡に旅行をしました。福岡はもつ鍋で有名だそうで、街のあちこちにもつ鍋屋があり、街を歩いていると多くのもつ鍋屋を見かけます。そこで夕方に友人と街を歩いて、夕食にもつ鍋を食べることにしました。しかし、その日の昼間には沢山のもつ鍋屋を見かけたにも関わらず、夕方には全く見つかりません。そこで友人と、「もつ鍋屋に足が生えて、我々が歩いていくそばから、サーっと逃げていってるんじゃない」、という話をして、お互い笑い、会話がおおいに弾んだという経験をしました。
●妄想を積極的に促す方法(その9):妄想の原料、特にアニメのシーンに数多く触れる
この妄想は、振り返って考えてみると、ディズニーのアニメの中の燭台に足が生えて踊る場面の連想から生まれたように思えます。また、前回の「妄想を積極的に促す方法(その5): 頭の中で映像として再構成してみる」の中で私の空を飛ぶ妄想の話をしましたが、これもディズニーのアニメの空飛ぶ絨毯を見た経験からだと思います。その面からアニメは、有力な妄想の創出源になるのではないでしょうか(私などこの歳になると、若い人のようにあまりアニメを見る機会はないのですが)。
もちろん小説、テレビドラマ、ニュースも同様の効果があります。しかし、アニメの効果はそれらに比べても極めて大きいように思えます。なぜかと言うと、ニュースは現実そのものですし、また小説やテレビドラマも読者や視聴者との共通体験や意識を出発点にしているため(そのため読者や視聴者が興味を持ってもらえる)、それが妄想の制約にもなっている。一方で、たとえばアニメは作者が自身の想像力を多いに発揮して、むしろ既存の常識や制約を大きく超えたものを作るという意図を持って作品を制作しているからではないかと思います。
●妄想を積極的に促す方法(その10):他の人と妄想を言い合う関係を築く
上の私のもつ鍋屋の妄想の例のように、身近に妄想を言い合う相手がいると、妄想がはずみます。家族、友人、職場の同僚の中に妄想を言い合い(たとえば、さまざまな妄想を冗談のネタにするなど)、お互い楽しめる関係を築くと、妄想の頻度が各段に高まります。
さらに一歩進めて、妄想ブレーンストーミングなどを開くことも有効かもしれません。未来予測の方法に、シナリオプラニングというものがあります。シナリオプラニングでは、現在存在するもしくは将来生まれると想定されるマクロ環境を前提として、そこから複数のメンバーで、将来シナリオを考えてみるというものです。一方、妄想ブレーンストーミングは、シナリオプラニングでは前提となるマクロ環境を一切排して、まさに妄想で将来のシナリオを自由に考えて見るというものです。
また、お互い妄想を創出し言い合う関係をより楽しむために、たとえば普通大人が見ないような子供向けのアニメを一緒に見にいくなどという関係ができれば最高です。
●妄想を積極的に促す方法(その11):自分自身を積極的に妄想者と位置付けてみる
その他の自分自身の妄想を促す方法に、ある意味自虐的に(妄想者というと変人と考えられるので)自分自身を妄想者と位置付けて、そのような自分を楽しんでみるということがあると思います。
ホンダの創業者の本田宗一郎の人生哲学をあらわした言葉として、「得手に帆をあげる」というのがあります。ネットでその意味を調べてみると「得意なわざを発揮できる好機が到来し、調子に乗って事を行う。」(デジタル大辞泉)とあります。まさに、得意なこと、すなわち妄想を「調子に乗って」やる気持ちを持ち続けるということです。
(浪江一公)