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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第329回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(176): KETICモデル-思考(118)
「発想のフレームワーク(61):思考の頻度を高める方法(31) 妄想のすすめ(1)」

(2024年4月22日)

 

セミナー情報

 

前回まで自分が生物、物、さらには抽象概念になったと想像して、世の中を観察しようという話をしてきました。これは言うなれば、まさに妄想の世界です。妄想はネガティブに捉えられがちですが、私は妄想はイノベーション創出において、極めて重要な役割を果たすものであると考えています。今回から、この「妄想」というキーワードに着目して、議論をしていきたいと思います。

●イノベーションは「無」から生まれるものではない:シュンペーターの「新結合」
これまでこのメルマガの中でも何度か触れてきたように、イノベーションは天から降ってくるものではなく、既存の知識の新しい組合せ、すなわち新結合によって生まれることは、イノベーションの研究者であるシュンペーターが述べているところです。つまり、イノベーションは「無」から生まれるものではなく、「有」から生まれるというものです。そのため、イノベーションを起こすためには「有」である、何等かの知識が必要となり、その知識が多ければ多い程、イノベーションがそれら知識のスパークにより起こる可能性が増えていくと考えることができます。

●確認されたファクトは極めて限定的・制約的
しかし、スパークに使われる知識として、ファクトや現実は極めて限定的で制約的です。なぜかと言うと以下の2点があるように思えます。

〇場所・時を選ぶ
ファクトは、ファクトのある場所にしかファクトはありません。実際にファクトのある場所、またファクトを伝える場所に、自ら身を置かなければそれを得ることはできません。

〇コスト(手間・時間)が掛かる
また今、目の前にないファクトを集めようとすれば、手間と時間が掛かります。

●日本人は確実なものを重視する傾向が強い
我々日本人は、ファクトなど確実な現実を重視することを、勤務先の企業や組織、そして教育機関などでずっと教えられてきたように思えます。その結果、日本人には諸外国の人達と比べても、確実なものをより重視するという傾向が強いように感じます。

その背景には、これは私の私見ですが、日本人は稲作という皆の堅実な活動に支えられ一致協力して事にあたる生活を、長い間送ってきたからではないかと思います。つまり大量のアウトプットを確実に創出しなければならない、それに失敗すると集団が餓死してしまうという環境の中で、組織の構成員それぞれが、確実性を重んじるという傾向が生まれたということではないでしょうか。

●妄想には制約がない
しかし、今ここで議論している妄想には知識を生み出すにあたって、上で挙げたファクトの制約はありません。

〇場所・時を選ばない
まず場所・時を選ばず、場所・時に制約されずあらゆる場や時間に知識を、自由に勝手に生み出すことができます。

〇コスト(手間・時間)が掛からない
妄想する手間や時間は基本的に必要ではありません。頭さえあれば、その場・その時に瞬時に新しい知識を生み出すことができます。

次回も、引き続きこの議論をしていきたいと思います。

(浪江一公)