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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第323回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(170): KETICモデル-思考(112)
「発想のフレームワーク(55):思考の頻度を高める方法(25) 思考の扉を増やす(3)」

(2024年1月29日)

 

セミナー情報

 

前回は「思考の扉を増やす」活動として、「他人」という人間を活用して、その人間の事を良く知る活動をしてみる、さらにはその「他人」になりきってみるというお話をしました。ここでは「他人」という人間を対象としたのですが、人間を対象とするならば、他の「動物」を対象とするということもあるのではないか、ということに思い至りました。今回は「思考の扉を増やす」活動の1つとして、「自分が動物になった」と考えてみるについて議論をしたいと思います。

まず「自分が動物になった」と考えることで、何が得られるか、すなわちその目的を考えてみたいと思います。それには以下の4つの分野があるのではないかと思います。

●動物を知ることで直接的に営利的な利益を得る
動物をビジネスや仕事の対象としている場合は、動物を深く理解することで、直接的に営利的な利益を得ることができます。たとえば、ペット、食肉、漁業、養殖、酪農などの産業の従事者、狩猟家、獣医、動物学者など、動物に関連する活動を生業としている人達がいます。写真家や画家など、動物を作品の主要な対象としている人達も、このカテゴリーに含まれるのではないかと思います。

ペットで言えば、ペットの事をより良く理解すれば、ペットが食べたがるペットフードの開発が可能です。酪農であれば、牛の気持ちになって牛を良く知ることで、ストレスのない環境で牛を育てれば、良い肉質の牛を飼育できます。狩猟家は鹿のことを良く知れば、鹿を仕留めやすくなります。

最後の例で言えば、実際に、オーストラリアのアボリジニー(狩猟民族)は、皆で鳥のような恰好をし、鳥のように動く真似をして、鳥の気持ちを理解するという活動を行ってきました。鳥の気持ちがわかれば、狩猟で獲得できる獲物が増えます。まさに生きるために、重要な活動として古くからずっとやってきているのです。

●動物を知ることで間接的に営利的な利益を得る
また、動物を深く理解することで、自分の提供しているものに付加価値を付けるなどがあります。たとえば、音楽家のサンサーンスには、動物をテーマとした曲(動物の謝肉祭)などの作品があります。また自動車メーカーのマツダは、荒野を疾走する馬をイメージした自動車を開発するなどを行っています。後者で言えば、馬を観察したり、乗馬をするだけでなく、そのような経験から馬はどんな気持ちで荒野を疾走するのかまでを考えることで、「荒野を疾走する馬」のイメージは、より明確になります。

●動物と戯れることで非営利的な利益を得る
自分自身の個人的な目的で動物と関係を持っている人達、たとえば、ペットを飼っている人や乗馬をする人など、動物を知ることにより、(非営利的な面で)利益を得る場合もあります。ペット愛好家はペットの気持ちを知ることで、ペットとの関係性を高めることができます。また乗馬をする人は、馬の気持ちを知ることで、馬をより上手に繰ることができます。

●思考のパターンの拡大というイノベーション創出への貢献
しかし、上にあげた動物と何等かの形で関与している人、関与する可能性のある人は、人口全体の中の極一部にすぎません。その他の一般の人達にとって、何か動物を深く理解することで得られることはあるのでしょうか?私は動物を、動物になってみるという活動で深く知ることで、動物とはまったく関係のない生活を送っている人達にとっても、思考のパターンの拡大という、イノベーション創出貢献という大きなメリットがあると考えています。

次回は、この点について考えてみたいと思います。

(浪江一公)