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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第313回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(160): KETICモデル-思考(102)
「発想のフレームワーク(45):思考の頻度を高める方法(15) 聴覚で思考する(2)」

(2023年9月4日)

 

セミナー情報

 

前回から、五感の最後の感覚である聴覚について議論しています。今回も引き続きこの聴覚について考えてみたいと思います。

●音の活用の例
人間は聴覚を、様々な生活、仕事そして余暇の場などで活用しています。以下のような例があります。

〇環境の危険を察知する
野生の動物や人間は、音により危険を察知するということをずっとしてきました。まさに人間はそのような音による危険の察知により、サバイバルをし、進化をしてきたと言っても過言でありません。現代人にとっては、サバイバルのために音を利用するという局面はほとんどありませんが、現代でも周りの状況を音から把握して危険を察知するということを、本能的にしています。

〇音でコミュニケーションをとる
特に人間の場合は、声という音を他人とのコミュニケーションの主要な媒体としています。音は瞬時に簡単に効率よくメッセージを生成し、受け手にもそのメッセージを効率的に伝えることができます。また、太鼓やラッパ、さらには現代においては拡声器やスピーカーといった道具を使えば、かなり広範囲に複数の対象者にもそれらメッセージを伝えることができます。

〇対象物が発する音で対象物を詳細に調べる
聴診器は随分昔から活用されているようです。医者は、聴診器により心臓の音や肺の音を聴き、その音から異常を見つけます。聴診器は19世紀に発明されたものですが、直接からだに耳を当て、心臓や肺の音を聴くという診断法は古代ギリシャから使用されていたようです。

〇ものを叩いて状況を調べる
鉄道の分野では鉄道車両や線路をハンマーでたたき、その音で異常を検知するということを昔からやっています。また、日常生活の中でも、スイカの食べごろを知るのに、スイカを指で弾いて音を聞いて、その熟れ状態を調べるということをします。その他、体の診断の場でも、背中などを叩いて音を聞くという打診法が使われています。

〇音楽で気持ちをコントロールする
軍隊には軍楽隊がありますが、もともとは、音楽により兵士を対象に戦闘意欲を高めることを主要な活動としてきました。その後、軍隊の威厳を高める、行進などの一体の活動を促す(これは上の「音でコミュニケーションをとる」に該当)などに使われるようにもなりました。一般の人たちも、音楽を聴くことによって気持ちを高めたり、悲しみを癒したり、気持ちをリラックスさせる、快感を得るということをしています。このように音楽という音のつながりにより、人間の気持ちに働きかけ、コントロールすることができます。

〇音で過去を再体験する
音楽を含め音を聞くことで、過去にその音を聞いた時に同時に体験した様々な状況をありありと思い起こすことができます。フラッシュバックのように、意図せずにネガティブなものも思い起こしてしまうということもありますが。他の感覚(例えば匂い)においてもこのような効果はありますが、活用の頻度やありありと思い起こさせる度合いから、この点では聴覚の効果は極めて高いように思えます。

〇音に基づき連想する
さらには、人間は、必ずしも自分自身が過去に音とセットで体験したものではなく、別々の体験から得られた情報を、自身の頭の中で関連づけ(たとえば音と映像や気持ち)、後にある音や旋律や音楽を聞いた時に、それ(映像や気持ちなど)を連想するということをしています。作曲家はまさにその効果を期待して、音楽を作曲していますし、そのような効果を期待して人間は音楽を聴くのです。

このように聴覚は人間の様々な場面で活用されていて、イノベーションに大きく貢献するように思えます。引き続き次回もこの議論をしていきたいと思います。

(浪江一公)