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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第312回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(159): KETICモデル-思考(101)
「発想のフレームワーク(44):思考の頻度を高める方法(14) 聴覚で思考する」

(2023年8月21日)

 

セミナー情報

 

前回までに4回にわたり「視覚で思考する」について議論をしてきました。今回からは、五感の最後の感覚である聴覚ついて考えてみたいと思います。

●聴覚は最も活用されていない感覚
日頃我々は、人と会話をする、人から話を聞く、音楽を聴く、テレビで画像と一緒に音声を聞くなど、聴覚を使った活動を数多くしています。しかし、聴覚の利用は受け身のことが多く、五感の他の感覚に比べても、積極的に聴覚活用することがないように思えます。古代の人間が猛獣の声を聞いて危険を察知し、鳥の声を聞いて食物のありかを見つけるという、サバイバルのために聴覚をおおいに活用する生活をしていたのに比べ、現代人の聴覚の利用状況は大きく異なるようです。

●他の感覚に比べて再現性がない場合が多いから
なぜ聴覚が積極的に現代社会で活用されないかというと、再現性が他の感覚に比べて低いからではないかと思います。目の前の映像や匂い、触感、味覚はもう一度確かめようと思えば、多くの場合まだそこにありますので、確かめることができます。しかし、その場で聞いた音は、一瞬にして消えてしまいます。

●聴覚の有用性
しかし、聴覚は他の五感に比べても優れた点があります。むしろ優れた点があるからこそ、人間を含む動物はこの機能を五感の1つとして発展させてきたとも言えます。聴覚の優れた点として、以下があると思います。

〇対象範囲が極めて広い
聴覚のカバーの対象は、目の前のものから相当離れたものまでおおきな広がりがあります。視覚も対象領域は同じように広いのですが、情報を得るためには目の焦点を対象物に合わせなければなりませんので、見逃しが当然発生します。しかし、聴覚は上下左右360度全方位また遮蔽物を超えて暗闇の中でも、すべての情報が向こうから耳に飛び込んできます。したがって、周囲の状況を網羅的に把握することができます。

〇情報の解像度が高い
何か動けば、必ずその活動をあらわす様々な独特の音を発生しますので、それらの複合的な音により、どのような活動が起こっているかを、過去の経験に照らし合わせて、かなり詳細に想定することができます。

〇情報の信頼性が高い
加えて、それら得られる情報は、映像情報のように、錯覚はあまりありませんので、他の五感で得る情報に比べても信頼性が高いと言えるのではないかと思います。

〇人間の感情に深く訴えかける
人間は原始の時代から、音を機能的な面だけでなく、感情面でも利用してきました。ものを叩いて音を出す、声を出すなどにより、喜びを感じたり、悲しみを癒したり、気持ちを高揚させたり、皆で一体感を持たせたり、といったことが可能です。視覚を利用した映像でもこのようなことは可能ですが、舞台装置をはじめ大がかりな仕組みが必要となります。一方で、歌をうたう(声をだす)やものをリズムに合わせて叩くなどは、きわめて簡単に行うことができます。

●イノベーションに向けての活用の余地は大きい
このように、イノベーションに向けては、あまり積極的に利用されていない聴覚ですが、上のような有用性からも、もっと活用の余地があるのではないかと思います。

次回もこの議論を続けていきます。

(浪江一公)