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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第309回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(156): KETICモデル-思考(98)
「発想のフレームワーク(41):思考の頻度を高める方法(11) 視覚で思考する(2)」

(2023年7月3日)

 

セミナー情報

 

今回も前回に引き続き、視覚で思考するについて議論をしていきたいと思います。

ちょうど今月、日本経済新聞の「私の履歴書」は、建築家の伊東豊雄さんが対象となっています。7月2日(日)の回では、伊東さんは子供の頃の長野県の諏訪の原風景が、彼の建築に多くの影響を与えていると言っています。伊東さんの家は諏訪湖のほとりにあり、当時の諏訪湖は冬には凍結し、水面と気温の温度差によって発生するもやの美しさや、湖面の氷が山脈のように盛り上がる「御神渡り」、そしていつも鏡のように静かな湖面の風景の記憶が、「ものすごく浄化されたものとしていま自分の中によみがえる。僕はそれを建築に表現しようとしているのではないかと思うことがある」と語っています。

まさに過去に視覚で経験した風景(映像)を、現在のイノベーションに活用しているということです。

今回からは、視覚を活用して創造性を高め、イノベーションを起こす能力を強化する方法について、考えてみたいと思います。

●視覚情報に数多く触れる機会を持つ
まずは、上で伊東さんが子供の頃に得た原風景といっているように、印象的な視覚情報に数多く触れる機会を持つことが、そのイノベーションに多いに貢献するのだと思います。伊東さんの場合には、偶然子供の頃そのような経験をした訳ですが、より主体的にそのような機会を持つことは、多いに意義のあることと思います。私の学生時代に人気のあった本で、「何でも見てやろう」(小田実著)という本がありましたが、まさにそのような気概を持って「何でも見る」活動をするということです。

その活動については、4つの方向性があるように思えます。

〇実際の現場に触れる
まずは、数多くの現場を訪問し、そこで直接的な実際のリアルな風景、物や在り様を見て、情景やその場を経験することです。例えば、公私にわたって国内そして世界中のいろいろな場に赴く、顧客の現場を訪問する、美術館や博物館や美術館に行く、といったことです。それにより、後に「そういえば」などということが、数多く起こるようにしておくことです。

〇抽象化された絵・図・パターンに触れる
視覚で捉える対象は、実際の現場のリアルな風景、物や在り様だけではありません。誰か第三者によって、抽象化されたり、パターン化された絵や図に触れるということもあります。たとえば、ピカソの抽象画を見る、マイケル・ポーターが創ったバリューチェーンの図を見る、百年後の世界を描いた絵を見るなどです。これらも、後に頭の中で映像を再現する場合に多いに役に立ちます。

〇映像を惹起するような非視覚対象に触れる
視覚情報を得るために触れる対象としては、直接視覚で「見る」対象だけではありません。対象は映像ではないのですが、映像を惹起するようなもの、例えば小説、詩、俳句・短歌、歴史的な文章、さらにはその他の五感で得るような音楽、匂いなどに、数多く触れるということもあります。たとえば、俳句などは、まさに映像としてその情景を頭にありありと生み出すものです。「古池やかわず飛び込む水の音」という俳句を聞けば、誰しも(その情景を実際に見た事がなくても)、静寂の中、小さな池に蛙が飛び込む情景を思い浮かべます。

〇映像情報に触れる
そしてテレビを見る、映画を見る、YouTubeを見るなど、第三者が作った映像に触れることがあります。ただし、これらは受け身で経験する傾向が強いもので、その触れ方には多いに工夫が必要です。

(浪江一公)