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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第295回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(142): KETICモデル-思考(84)
「発想のフレームワーク(27):失敗のコストのマネジメント(6) ワクワクする目標とは」

(2022年12月12日)

 

セミナー情報

 

前回のメルマガの中では、時間を掛けても良いと思えるようにするには、十分な時間を確保する必要があり、そのためには長期で目標を立てることが有効であるという話をしました。今回は、この、時間を掛けても良いと思えるようにするための長期での目標設定について、議論をしたいと思います。

●イノベーションを駆り立てる長期の目標の要件:ワクワク
長期の目標の内容はいろいろであると思いますが、長期の目標は、持続してその目標に向かって毎日の思考や行動を駆り立てるようなものでなければなりません。そのような長期の目標は、一言で言うと「ワクワク」するものである必要があります。それでは「ワクワク」する目標とは、どのような要件を備えている必要がある必要があるのでしょうか?それらは、以下の3つの要件であると考えます。

〇目標が達成されることは、自分、組織そして社会にとって真に大きな価値がある
高い目標の達成には、必ず自分達にとって重要な何かを相当なレベルで犠牲にしなければなりません。犠牲にするのは、安定的な地位、資産、時間、エネルギーなどです。そのため、その犠牲を払っても相当余りある価値を生み出すものがなければ、その目標に向かって自分の思考や行動を駆り立てることはできません。これは、ワクワク感を生み出す大前提となるものです。

しかし、その目標が自分が属する組織や社会に悪影響を及ぼすのであれば、ワクワク感は減殺される、もしくはそもそもワクワク感を感じることはできません。この点もワクワク感を生み出すポイントとして重要です。

〇他人があまり設定しないようなユニークな目標
しかしこれだけでは、ワクワク感を生み出すには、頭ではわかっていても、腹の底から目標達成に駆り立てるというものにはならないのではないでしょうか。この点に関し、目標が他人から見て凡庸な目標であると、人間はワクワクしないものです。一方で、他人、他社が達成をあまり考えないようなユニークな内容の目標、もしくは他人、他社が考えないような高いレベルの目標であると、おおいにワクワクするものです。

米国のアポロ計画。1962年に当時の米国のケネディ大統領は、1960年代の内に有人月面着陸を達成するという目標をたてました。これにより米国の国民の士気は多いに高まり、1969年に公約通り、米国は人類にとって画期的な有人月面着陸に成功します。

なぜ他人、他社が設定しないような目標はワクワク感を生み出すのか?それは世の中での自分達の有能感や存在感を、多いに高めるからではないかと思います。世の中で、自分や自分達の有能感や存在感を高める効果には、極めて大きなものがあります。例えば、特攻隊の隊員は、自分の命を犠牲にしても、国を守る(現実には特攻で国を守ることはできないのですが)ことをするわけです。それは自分の命という究極の犠牲を払っても良いと思える程に、自分の有能感や存在感を、この特攻隊の例で言うと崇拝されるというレベルまで高めてくれるからです。

加えて、まだその目標が達成されていない段階から、そのようなユニークな目標を設定したことを、外部に公表することで、世の中からの期待感が高まります。それにより、世の中の期待感に応えたい、応えなければならないと考えるようになり、それが、目標達成のための行動や思考をさらに駆り立ててくれます。

〇達成できる強い予感があるしかし、どう頑張っても達成できないような目標では、そもそも自ら主体的にそのような目標達成に取り組む気にはなりません。その目標は、頑張れば達成できる、という予感があるものである必要があります。ここで重要なのが、達成でき「そうだ」のレベルではだめです。仮に十分な根拠がなくても、達成できる「筈だ」というレベルの強い予感、ある種の直観があるものでなければなりません。

(浪江一公)