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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第271回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(118): KETICモデル-思考(60)
「発想のフレームワーク(3):社会との共感」

(2021年12月27日)

 

セミナー情報

 

前回は、「整理するフレームワークで整理・構造化した知識の中で焦点を当てる重要部分を切り取る」という議論の中で、果物の変色に目を付けてビタミンCを発見したアルベルト・セント・ジュルジと研究者による患者やその家族との接点を重要視しているエーザイの活動の事例を説明しました。このような活動から、イノベーションの創出には、そもそも社会との共感性が強く求められるのではないかという仮説が浮かびあがります。

●社会との共感性がイノベーションを起こしたその他の例

そこで、社会との共感性からイノベーションが起こされた例はないかと考えてみると、以下を含めそのような例は沢山あるように思えます。 

〇ユーグレナ 

ユーグレナは、動物と植物のハイブリッドな藻類を利用して、栄養価の高いサプリやバイオ航空機燃料を生産・販売する企業ですが、同社の創業は、創業者の出雲充氏が学生時代に訪れたバングラデッシュの現地の劣悪な栄養事情に衝撃を受けたのがきっかけです。 

〇オリィ研究所 

オリィ研究所は分身ロボットのメーカーですが、同社の創業者の吉藤健太朗氏は小学校・中学校で不登校を経験し、その後そのような自身の経験から、車椅子利用者の「孤独感」に共感し、車椅子の制作、そしてさらにその後ALSなどの難病のためベッド生活を強いられている患者に向けて分身ロボットを開発しました。 

〇島精機 

島精機の創業者である島正博氏が、最初の発明であるゴム入り安全手袋編み機をうみだしたのは、当時工場などで作業員が手袋ごと手を機械に引き込まれ大ケガをしたり、場合によっては命までも奪われる事故が多発していて、これら事故に島氏が心を痛めたからと言われています。 

●社会との共感がイノベーションを生み出す大きな原動力になる 

このような例から、社会との共感、すなわち社会問題の存在の認識はイノベーションを生み出す大きな原動力になることがわかります。そう考えると、前回を含めこれまで本メルマガの中では、価値創出は顧客を対象としたPain(苦痛や問題)の解消か、Gain(あったらいい)の実現であると言ってきましたが、イノベーションを起こすより大きな原動力になるのは、広く社会のPain(苦痛や問題)の解消のように思えます。 

●顧客だけではなく社会に目を向ける 

既に近年SDGsやCSVという言葉が広く使われるようになり、社会へ目を向けることの重要性が高まっていますが、特にイノベーション創出の視点からも、この点は極めて重要となっていると思います。私はこのメルマガを含め、「顧客」価値創出の重要性を強く訴えてきましたが、これからは顧客だけでなく、もしくは顧客以上に重要なのが、「社会」に目を向け、「社会」価値を生み出すことに目を向けなければならないことに、思いいたりました。

●社会に目を向けることで新な市場を創出する 

これがまさにマイケル・ポーターがとなえるCSVの概念なのですが、純粋にビジネスの面(すなわち収益を挙げるという面)からも、顧客を超えて社会に目を向けることは、今まで顧客でなかったステークホールダーを新な顧客とすることを意味します。つまり、新しい市場を創出することができるということです。

(浪江一公)