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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第267回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(114): KETICモデル-思考(56)
「本質とは何か(6)」

(2021年11月1日)

 

セミナー情報

 

現在、知識や経験を整理するフレームワークとして、本質とそれ以外という区別があるという理解から、「本質とは何か」を議論しています。また、企業活動の「本質は何か」を考える上でそれは、「自社の存在価値」と密接に関係する事項であるとし、これまで「自社の存在価値」は、「大きな顧客価値の創出」と「競争の回避」の2つから生まれる、ことを議論しました。

しかし良く考えてみると、この2つは外側から見た「自社の存在価値」の要件で、それを自社のものとして実現するにはそれだけでは不十分で、さらにそれを実現できるようにする要件、すなわち内側から見た要件も必要となることに思い至りました。前回からこの議論をしており、今回も引き続き前回挙げた「内側から見た自社の存在価値」の要件の2つ目「●自社の存在価値が社会全般から見て正しく、価値がある」について議論したいと思います。

●人間は誰しも社会に貢献したいと考えている

もちろん会社そしてその社員にとっての個人的な利益、メリットはモチベーション向上にとって必要なものですが、モチベーション向上にとっては、それと同等、もしくはそれ以上に重要なのが、社会全体(様々な第三者から)の視点から見て正しい行いをしていると実感できることです。

人間はそうとうの悪人ですら、社会的な貢献をしたい、社会に受け入れられたいと強く考えていると思います(企業の社員が悪人と言っているのではないので、その点誤解がないようにお願いします(笑))。それを強く認識した事件が最近ありました。北九州の工藤会という暴力団の代表が福岡地裁で死刑判決を受けましたが、その直後その代表は、今まで社会で阻害されてきた、放っておいたら社会に害を及ぼす人間を組員として受け入れ面倒を見て社会に貢献してきたのに、というようなコメントをしていました。私はこの代表は詭弁でそのように言ったのではなく、本当にそう思っているからと思います。

●「人間は誰しも社会に貢献したいと考えている」の背景にある理由

その背景には、人間にはDNAのどこかに進化の過程で、厳しい自然環境や他部族との闘いが常に存在する環境の中で、集団(すなわち社会)で生活・行動することを促す部分が含まれるようになっているのではないか。

したがって、全ての人間は社会の一員として行動したいと、潜在的に感じているのではないかと思います。したがって、前回も議論したように達成の簡単ではない「自社の存在価値」を実現するための活動に社員を駆り立てるには、それが社会に貢献するものであるということは、社員の大きな原動力になると思います。逆に、社会へネガティブな影響を与えるような目的では、社員のだれも「自社の存在価値」を達成する活動に身を投じることはないでしょう。

●マイケル・ポーターのとなえるCVSとの関係

ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーターは近年CSV(Creating Shared Value)という概念をとなえています。それが意味するところは、社会的な問題を解決しながら(つまり社会に貢献しながら)、その社会的な問題を解決することで自社も収益を挙げるという概念です。自己のために収益を挙げることと、社会への貢献は一見相反することのように思えるが、それは両立が可能であるというものです。

しかし私はむしろ、それどころか、CVSという概念をすばらしいものとしている理由は、「社会に貢献する」という活動は、その行動が間接的な外部から高い評価獲得を生み出すことだけではなく、直接的にその取り組みにおいて社員のモチベーションを大きく向上させる大きな効果があることではないかと思います。

このように、「人間は誰しも社会に貢献したいと考えている」は企業経営において、知っておく必要のある極めて重要な点のように思えます。

(浪江一公)