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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第260回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(107): KETICモデル-思考(49)
「知識・経験を位置で整理する(4)」

(2021年7月19日)

 

セミナー情報

 

前回まで三度にわたり、KETICモデルの思考の中の「位置(関係)で整理する」を議論しました。今回はこれまでの議論を踏まえ、このような思考でどうイノベーションを実現するかを考えたいと思います。

アナロジー的な発想を含めて、空間的位置関係からイノベーティブな発想をする方法として、以下があると思います。事例を含めて議論をしていきたいと思います。

●対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、その上で従来とは逆の思考をする

〇上下の例

「真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか」という、SASのCEOであるヤン・カールセンが著した本があります。彼はこの本の中で、逆ピラミッドの組織図を提唱しています。通常組織図は一番上の頂点にCEOが、現場の社員はピラミッドの底辺に、そして真ん中に中間管理職が置かれます。しかし彼は、一番上には常に顧客と直接接する立場にある現場の社員が、そしてその下に管理職が、最後に一番下にそれを支える形でCEO置かれるべきであるという主張をしました。まさに従来の常識の上下を逆に考えたものです。

●対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、自分のいる側とは別の側から見てみる

〇遠近の例

現在私はある会社の社外取締役をしていますが、この会社は海外に数多くのグループ会社をもっています。この状況に前回議論した「遠近」を当てはめてみると、「近」は日本の本社の社員、「遠」は海外のグループ会社の社員と考えることができます。この会社の日本にいる社員は常に「近」の立場で「遠」を見ているわけですが、「遠」から見た「近」は全く別の景色を見ている、もしくはそもそも「遠」の社員は「近」のことはほとんど認識・関心がないことも想定されます。

後者に関しては、私は面白い体験をしたことがあります。米国の国内線に乗った時に、隣の席の米国のビジネスマンとの会話となり、彼にその会社の本社はどこかと聞いたところ、彼は悪びれる風もなく、知らないと答えたことがありました。日本では自社の本社がどこにあるかぐらいのことは、全ての社員が知っていることですが、きちんとしたスーツを着たビジネスマンからそのような答えを聞いて、大変驚いた経験があります。

「遠」の立場で「近」を見るようにすると、「近」の人たちには想像がつかなかったような、それこそイノベーティブな価値創出に結びつくような、「近」の「遠」のマネジメント上の問題点やその解決策などが、浮かびあがる可能性があります。

●対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、その空間的位置関係を構成する構造を変えることを考える

〇内外の例

「内外」も空間的位置関係を示す言葉です。通常「内」と「外」の間には、「外」の影響を排除し「内」に安定的な環境を維持するための遮蔽物や外壁が存在します。しかし、この遮蔽物や外壁が「外」の影響を排除するに最適なものとはかぎりません。なぜなら、この遮蔽物や外壁は、「内」の環境の制約要因、たとえば「内」の空間を狭めるなどにもなっているからです。

音の技術にノイズキャンセリングがあります。従来外界から入ってくるノイズや騒音は、防音壁やイヤーマフなど物理的なもので遮蔽していますが、空間や行動の制約や必要な音自体も遮音してしまうなどの問題があります。防音壁やイヤーマフを使わずこのような制約・問題を解消して、対象とする波長だけを遮断するのが、ノイズキャンセリング技術です。

(浪江一公)