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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第253回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(100): KETICモデル-思考(42)
「知識・経験を関係性で整理する(30)-類似」

(2021年4月12日)

 

セミナー情報

 

現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています(全体像は昨年の2020年1月27日第224回のメルマガをご参照ください)。当該メルマガ中のリストの項目に加え、その後第250回から「対立」や「協調」を加えてきましたが、今回はさらに「類似」について考えてみたいと思います。

●「類似」によるアナロジー発想

世の中のイノベーション発想の例に、類似したものの解決策を利用して、すなわちアナロジー発想をして、イノベーション実現している例が数多く見られます。

先月(2021年3月)の日本経済新聞朝刊の「私の履歴書」は、世界的な編み機メーカーである島精機会長の島正博氏が対象としていました。その連載の中に、島氏がたまたま訪問した印刷機メーカーで、その後のイノベーションに直結する「類似」を発見した例の記述があります。島氏は、印刷械の基本原理である色の三原色(マゼンタ、シアン、イエロー)の中に、編み機の「ニット」、「タック」、「ミス」の三つの機能との類似性を見出し、その着想からニット業界に革命をもたらす編み機を開発しました。

実は島氏は、それ以前にもこのアナロジー発想で、画期的なイノベーションを創出しています。もともとは、島精機は手袋の一体編み機のメーカーであったのですが、「なるほど手首の部分を衿に、人差し指・中指・薬指の指3本分を胴体に、親指と小指を両方の袖に見立てればセーターと同じ形になるな」(日本経済新聞2021年3月16日)と考え、アパレルの一体編み機を生み出していました。

●なぜ「類似」によるアナロジー発想はイノベーション創出に有効なのか

世の中には神羅万象があるのですが、それらの間には、遠くに離れたものを含め必ずと言ってよいほど、他との共通する類似性を持ちます。なぜなら全てのものは何かしらのカテゴリー、それも多数の複数のカテゴリーで分類することができるからです。つまり、あるものは、遠く離れたものとの類似性を持つ可能性が、極めて高いことになります。

加えて、その結果が現代社会にも貢献するような人類の高度な知的活動は、少なくとも数千年続いていると考えることができます。人類の人口は、数千万人(西暦元年には2千万~4千万人の人口がいたと想定されています)から現在の80億人までいました。これらの数多くの人間により、長い人類の歴史の中で、地球上の様々な場で大小様々なイノベーションが起こってきましたし、今も起こっています。

この2つの点から、現在の時点においても、膨大な未活用のイノベーションの蓄積があちこちに存在し、またその蓄積は日々拡大しています。その結果、現在気が付いていない、またかけ離れた遠い場に存在する大小様々なイノベーションにより、皆さんの周辺でPainの解決やGainの創出できる可能性は相当あると考えることができるからです。

ここで「かけ離れた遠い場に存在する大小様々なイノベーションにより」とは言っていますが、上の島精機で起こった2つのイノベーションは、編み機と印刷機や手袋とアパレルなど、同じ生産機械、繊維製品という、ある程度の近傍で起こったものです。ここから言えることは、2つあると思います。一つは、ある程度の近傍でもアナロジー発想によるイノベーションが起こる可能性が相当あること。2つ目は、更に遠くに目を向けると、もっと多くのアナロジー発想によるイノベーションの可能性があるということです。

それでは、次回ではどのようにしたら、「類似」によるアナロジー発想を促進できるのかを、具体的な仕組みの面から考えてみたいと思います。

(浪江一公)