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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第249回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(96): KETICモデル-思考(38)
「知識・経験を関係性で整理する(26)-並列」

(2021年2月15日)

 

セミナー情報

 

現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています(全体像は昨年の2020年1月27日第224回のメルマガをご参照ください)。今回は、「並列」について考えてみたいと思います。

●「並列」とは、相関関係はあるが因果関係がない関係

「並列」という言葉だけではわかりづらいと思いますが、ここでは「相関関係はあるが因果関係がない」関係を意味するものとしています。つまり、2つのことは、相関関係がある、すなわち一つが変わるともう一つも変わることが観察されますが、お互いは原因と結果の関係にはない状態を言っています。

●「並列」の問題点

この「並列」の関係において重要なことは、相関関係があるがために、因果関係があると誤って認識してしまうことがあります。

現在新型コロナが蔓延していて、それが大きな社会問題になっています。新型コロナ蔓延の結果、外食が控えられ家で食事をするようになっています。また新型コロナ蔓延により、皆が外出を控え運動不足になり、多くの人達がコロナ太りになっています。仮に家で食事をするようになっていることと、皆が太ったことだけが観察されると、もし新型コロナという原因がわかっていない場合には(新型コロナの蔓延は社内において極めて深刻な問題ですので、現実にはそのようなことはないのですが)、家で食事をするようになった「ので」、皆が太ったと理解されてしまうことは十分あり得ます。すなわち、両者には因果関係があると誤って認識してしまうということです。

●「並列」の問題の原因:人間の脳のシステム1

このような問題は人間の頭脳では、起こりやすいことが、心理学の研究などでわかっています。

人間の頭脳は情報が不足している状況においては、無意識のうちに自分の推測能力や過去の経験をフルに活用して、勝手に一見つじつまがあっているようなストーリー、すなわち仮想の因果関係を作り上げてしまうようにできています。これは行動経済学でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの言う、脳のシステム1の機能によるものです。システム1は生存のための機能で、人間だけではなく、動物一般にみられる機能です。それは、瞬時に状況の把握を行い、原因を認定し、それに即座に対応し生き残る行動をとるためのものです。

しかしシステム1は、生存のために即時性を重視するがゆえに、時に状況を見誤るという問題を起こします。その問題の一つに、ここで議論をしている相関関係があるものを見るとそこに因果関係を見出してしまうという問題があります。(一方でシステム2は、理性脳ともいわれ、反応が遅いのですが論理的な思考をする人間固有の機能です。)

●問題への対処策

この問題への対処策は、人間の脳はこの問題を起こすようにできていることを理解した上で、できるだけ認識された因果関係を疑ってみるということです。

またより根本的な対処策としては、一見因果関係があると思われることを、システム2を使って考えてみたら違ったという経験を数多くする(つまり日頃からよく考えるということをするということ)ことで、それをシステム1の前提となる経験に組み込むことがあると思います。

(浪江一公)