Top
> メルマガ:『価値づくり』の研究開発マネジメント

 

『価値づくり』の研究開発マネジメント 第246回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(93): KETICモデル-思考(35)
「知識・経験を関係性で整理する(23)‐包含」

(2020年12月21日)

 

セミナー情報

 

現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています。今回は、第224回(2020年1月27日)のメルマガの「関係性の種類」の中の、「包含」について考えてみたいと思います。

●「包含」とは

包含とはある要素が、他のより大きな全体の一部になっている状況を言います。この「包含」という関係性においてイノベーティブな発想をする上で重要なのは、あくまでそれは一部であって全体ではないということです。全体の構成要素は他にもあるわけで、その他の要素に目を向けることで、今まで見えていなかったものが見えてくることは良くあることです。

●パターン化からもたらされる一部を全体と考える誤り

世の中「そもそも、これ(A)はこういうもの(B)だ」と断定的に言われることは多いものです。特に目上の者が目下の者へ、例えば上司が部下に対して、親が子供に対して、先生が生徒に対して、このように言う傾向があります。もちろん目上のより多くの経験をし、より多くの学びをしてきた者の主張が正しいことは多いと思います。しかしイノベーティブに考える上で大事なのは、本当に「いつもA=Bなのか」ということです。本当はBcA(BがAを包含している)で、AはBの一部にすぎないということは現実にはあるものです。

人間は思考をパターン化するようにできています。これは容量の小さな人間の脳を省エネ運転で効率的に使うための、誰にも備わった活動です。何か危機に遭遇した場合に、瞬時にその対象を把握して対処をとるためのものです。

また学びにおいても、十分にその正しさを自分自身で検討しないで、学ぶということは多いものです。自分で一つ一つ検証して学んでいては、本来学ばなければならない膨大な知識を吸収することはできませんし、そもそも面倒です。世の中で常識と言われていることに無批判に従うのは、そのためです。

●Bに包含されているA以外を考えてみる

ここで考えなければいけないのが、そのパターンや「常識」が全ての場合に当てはまるかということです。もちろんそのパターンや常識自体を疑って、それが正しいかを考えることは重要かもしれません。しかし現実には大所では正しいことは多いものです。ここで目を向けるべきは、「大所」以外の部分です。

そこには、世の中では、また自分自身が気が付いていない、A以外の要素や前提がある可能性が大きいもので、それが新しい発見となります。

実は最近この重要性を気づかせてくれることに出会いました。私は現在MOTの大学院で教員をしていますが、私のゼミの院生に中堅の自動車部品メーカーの3代目の方がいます。彼の卒論のテーマは彼の会社の中国戦略を策定することですが、彼の議論の中に「中国人は〇〇である。」「中国企業は××である。」「中国政府は□□である。」という断言的なことが多いのに気が付きました。もちろんこのような発言は決して荒唐無稽なものではなく、世の中で良く言われていることや、彼自身の経験から発せられているものです。また彼だけでなく、皆このような思考をするものです。

しかし、問題はそれが全ての場合に当てはまるかということです。日本人と同じように中国人も多様であり、中国企業も同様です。また中国政府も時間とともに、その部分々々は変化していくものです。世の中の常識やパターン化、そして断言の鵜呑みからは、イノベーションは生まれません。

(浪江一公)