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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第240回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(87): KETICモデル-思考(29)
「知識・経験を関係性で整理する(17)‐外発的動機付けによる内発的動機付けの誘引(9)」

(2020年9月28日)

 

セミナー情報

 

今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素である「自律性」と「有能感」の内、後者の実現手段として、「(その2) 有能感獲得に向けて積極的に活動する」を議論します。前回と同様、あなたが「新事業創出チームメンバー社内公募に手をあげるかどうか」の判断をする場面を想定して、議論をして行きたいと思います。

●2. Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと得られる可能性を想定する(続き)
〇「現在主義の陥穽」に注意する
この点は、実は第238回(2020年8月31日)から議論している1~5すべてに関係しています。そのため、本来はここではなく、「1. GainとPainを網羅的にリスト化する」のところで最初にふれておいた方が良かったと思います。しかし、重要なことですので、ここで議論をしたいと思います。

「現在主義の陥穽」とは、現在の状況や今もっている過去からの経験を過度に前提として考えてしまうことを言います。もちろん今後のこと、未来のことを考える場合、我々が持っているのは、過去から現在までの知識や経験だけです。したがって、当然「現在」の知識・経験に大きく依存して今後のことを想定するわけです。しかし、今後は過去や現在の延長ではない可能性には、大きなものがあります。人類の生活は、何十憶年という長さをもつ地球の歴史にくらべ、何十年という極めて短期間で劇的に変わってきています。我々の思考も同様です(もちろん不変の部分もたくさんあるわけですが)。したがって、「現在」から考えざるをえないのですが、「現在」通りに将来は展開しない可能性もあることを、意識的に考え今後のことを考える必要があります。

〇GainはPainより見えにくい
日々生活していると、楽しいこと、Gainより、心配なこと、Painに注意が行きがちです。これは人間がサバイバルさせるためにできている、昔からの脳の構造によるものと思います。

したがって、Gainに関しては、頭に自然に浮かんでくるものだけでなく、頭に相当負荷をかけて一所懸命丁寧に考えなければなりません。

Gainを数多く出すには、例えば、まずはGainを20個出すというような、目標を設定して集中して強制的に考えるなどがあります(「強制発想法」)。また、ポジティブな性格の友人に、自分の意見を言ってみるなどもあります。それにより、自分の考えが整理されるという効果と、その人からポジティブなフィードバックが得られるという2つの効果があります。

〇期待すると実現する
Gainの姿を明確にすることで、そこへの期待が高まり、結果としてそのGainが実現する可能性が高まります。なぜかというと、これは心理学でもその効果が知られているように、その実現に常に関心をもち、その期待実現に向けて積極的に行動するようになるからです。

この効果には、私自身の実体験があります。10年ほど前、人生において大きな窮地に追い込まれたことがあります。その時にしたことが、自宅から歩いて30分ぐらいのところにある神社へのお参りです。その窮地から脱するためのかなりチャレンジングな複数の目標を設定しました。そして、その目標達成を神社で祈るというか誓うということを、2年間程続けました。驚くことに、いずれの目標も達成することができました。これは神様のお陰ではなく(お賽銭は毎回投げていましたが(笑))、このような行動で、自分自身をその達成に向けて強く動機付けすることができたからだと考えています。

〇注意点:「人間はGainが起こる確率を高く見積る傾向がある」
しかし一方で、「人間はGainが起こる確率を高く見積る傾向がある」ということも、心理学の研究でわかっています。Gainの可能性を想定する場合にも、この点に注意する必要があります。

(浪江一公)