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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第233回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(80): KETICモデル-思考(22)
「知識・経験を関係性で整理する(10)‐外発的動機付けによる内発的動機付けの誘引(2)」

(2020年6月15日)

 

セミナー情報

 

前回はエドワード・デシの四段階理論で、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階を議論しました。今回も引き続き、本トピックについて議論したいと思います。

●デシが重視する「自律性」

デシはその著書である「人を伸ばす力 内発と自律のすすめ」(新曜社)の中で;

人には自分の自律性あるいは自己決定の感覚―ド・シャームが自己原因性と呼んだ感覚―を経験したいという生得的な内発的欲求があると思われる。このことを言い換えるなら、人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必要がある、ということである。

と述べています。

この点に関し、ほとんどの人は自分自身の経験から同意されると思いますが、私事で恐縮ですが、この自律性の効果が思いのほか大きいなと気づいた事例が2か月ほど前にありました。私は大学院の教員としても活動しておりますが、通常の教育業務以外に学生支援を担当しており、その仕事には院生間の親睦・交流の促進も含まれています。新型コロナの影響で授業もリモートとなったために、どうしたら院生間の親睦・交流を促進できるかと考えておりました。そこに、大学院の重要三役のうちの一人の教員から、オンライン飲み会(その時点ではまだそれほど一般的ではなかった)を主催してはどうかという提案があり、子供じみていて恥ずかしいのですが、モチベーションが随分下がったということがあり、またその事実に自分自身驚いたという経験をしました。その理由は、自律的に、主体的に院生間の親睦促進に向け何かしたいと考えていたところ、この場合強制ではないのですが、自律性を損なうような提案が外部からあったということです。

●デシが重視するもう一つの点:「有能感」

デシは内発的動機付けに必要なもう一つの要素として、有能感を挙げています。デシは上であげた著書の中で;

その仕事をこなす力という感覚は、内発的な満足の重要な側面である。うまくこなせるという感覚はそれ自体が人に満足をもたらす。そして、生涯にわたる職業へみちびく最初の力にもなりうる。仕事に打ち込めれば打ち込むほど、いっそうそうした感覚を得ることができることに気づき、いっそう大きな内発的な満足を経験するだろう。

と述べています。

ホンダの創業者である本田総一郎の有名な著書に、「得手に帆をあげて」というタイトルの本があります。この言葉は、「絶好の機会が到来し、それを利用してはりきって行動を起こすこと」(故事ことわざ辞典)を意味しますが、有能感というのは、「得手に帆をあげて」の中で感じられるような感覚です。

●外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階にこの2つの要素を考慮する

したがって、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引するには、この2つの要素を効果的に組み込むことが重要であるということです。

この議論は次回も続けたいと思います。

(浪江一公)