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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第211回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(58): KETICモデル-経験(8)
「経験を知識に転換する」

(2019年7月22日)

 

セミナー情報

 

現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の議論をしています。しかし、いくら経験を重ねても経験(暗黙知)のままでは、イノベーションにつながることは困難です。効果的にイノベーションを起こすには、経験で得た暗黙知を、吸収・理解し、利用し、そして他の知識に発展させやすい知識、すなわち形式知に転換することが重要です。今回は経験を知識に転換する工夫について考えてみたいと思います。

●経験を知識に転換する3つの要素
ずっとKETICモデルについて議論をしてきています。KETICとは、知識(Knowledge)、経験(Experience)、思考(Thought)、意思(Intention)、好奇心(Curiosity)の頭文字をとったものです。ここでまさに、経験を知識に転換する要素として、思考、意思、好奇心の3つの要素が求められます。

○意思(Intention)
明確に輪郭がはっきりしないふわふわとした知識(暗黙知)を、明確なメッセージとしての知識(形式知)に転換すること簡単ではありません。そこには通常相当のエネルギーが必要となります。たとえば、私はよくクライエントと一緒にワークショップを開催する際、MECE(もれなく、だぶりなく)の構造を使って、課題などを整理するということをします。しかし、そこでは頭に相当汗を書かないと、きちんとしたMECEに基づくピラミッド構造はできません。そのエネルギーを発するために必要とする1つの要素が意思です。

何が意思を生み出すのか?外部からの強制力などもあるしょうが、強い意思を生み出すには、自分がやるべきことを明確に認識し、腹の底からそれを納得感を持って理解するということではないかと思います。したがって、会社においてはミッション、経営方針、戦略、またその背景となる機会や脅威が明確になっていて、かつそこに納得性があるということが必要となります。

つまり最終的にイノベーションを起こすためにも、これら要素、つまり何のためにイノベーションを起こすのかが極めて重要であるということです。イノベーションと言いながら、この点が明確ではない企業が大変多いように思えます。

○好奇心(Curiosity)
意思はどちらかというと、自分の心の奥底には抵抗するものがありながらも、それを強い意思で矯正するというニュアンスがありますが、好奇心はもう少し自然と湧きあがってくる、何かを知りたいという人間的なものと考えられます。もちろん意思を生み出す1つの要素ということもあると思いますが(その点から言うと意思と好奇心はMECEの関係ではないかもしれません。)

それでは好奇心はどこから生まれるのか?それは基本的な人間の欲求を満たすための、知識を探求するということではないかと思います。有名なマズローの欲求階層説では、生理的欲求、安全欲求、社会性欲求、尊厳欲求、自己実現欲求があるとされています。これが全てか、また階層構造をなしているかは議論があるところですが、いずれにしてもこのような欲求が好奇心の背景にあるということであると思います。

従って、好奇心を高めるには、マズローの階層説の上部に位置する欲求を刺激し、またその欲求実現を会社や社会として支援する、すなわちそのような欲求にチャレンジする場を与え、また本人に「やればできそうだ」と思わせることではないかと思います。

○思考(Thought)
意思や好奇心を原動力に、経験を知識に変換する中核の活動が思考です。思考能力は基本的には人間に自然と備わっているものではありますが、複雑な事象を対象に効果的・効率的に思考するにはそれなりの工夫が必要であると思います。そのためには、例えば、思考のフレームワークを数多く用意するためのトレーニングをする、また思考の時間を用意するなどがあります。

(浪江一公)