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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第210回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(57): KETICモデル-経験(7)
「未来を経験する(6)」

(2019年7月8日)

 

セミナー情報

 

現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の議論をしています。今回は「未来を経験・体験する」ための3つの方法の内の1つ、「現状を徹底して知り、そこから現状ではないもの、すなわち未来を間接的に経験する」の議論を続けたいと思います。

○現状を徹底して知り、そこから「現状ではないもの」、すなわち未来を間接的に経験する

未来の姿は、当り前ですが「現状の延長」であるか、もしくは「現状の延長でない」かしかありません。前者の「現状の延長線上の未来」を想定することは、本当にそうなるかは別にして、難しくはありません。既に未来を指し示すものが現状に現れていて、その延長線上で考えれば良いからです。

それでは後者の「現状の延長ではない未来」はどうでしょうか?実は、これも現状を理解することで、相当想定することができます。どうするかと言うと、「現状」が分かっていれば、まったくの無からではなく、「現状ではないもの」を考えれば良いのです。したがって、そこには既に「現状」というヒントがあるのです。

○発想法としてのMECE

思考の整理の方法としてMECEがあります。これはMutually Exclusive, Collectively Exhaustive の頭文字をとったもので、日本語では「だぶりなく、もれなく」という言葉がその訳語として当てられています。例えば、日本を構成する大きな島にはどのようなものがあるかを考えると、北から北海道、本州、四国、九州となりますが、これらの四島は、だぶりなく、もれなくの構成になっています。つまり、本州を構成する大きな島はこの四つの島しかありませんので、「もれ」はありません。また青森県は北海道と本州の両方に属しているということはありませんので、この四島の間には「だぶり」はありません。さらに、もう少し細かく、これらの四島を構成する都道府県にはどのようなものがあるのかを考えるにも、このMECEの構造で同じようにピラミッド状に整理することができます。このように、何かを考える場合、もれなく、だぶりなく、その構成要素をピラミッドの構造に整理する思考法がMECEです。

実はこの思考の整理法のMECEが強力な発想法、ここでは未来を想定する方法としても使えるのです。例えば、鉄道会社が、今自社の鉄道インフラを使って新しいビジネスを考えようとしているとします。そこで最初に「電車の中で英会話を教える」というアイデアが出たとします。そうすると、「電車の中」のサービスは、英会話だけではないよね。英会話は「語学」というくくりができるので、他の言語の会話も教えられるよね。また「語学」その上の概念として「教育」だから、「語学」だけでなく、「ビジネス」や「大学受験」や「一般教養」もあるよね。また、「電車の中」があるなら「電車の外」もあるよね。といったように、「電車の中で英会話を教える」という1つのアイデアが生まれるだけで、MECEを発想法に使うことで、そこから芋蔓式に様々なアイデアを創出することができるのです。

○MECEを利用して未来を考える

すなわち、現状を徹底して理解し、その「現状の理解」からMECEを利用して芋蔓式に未来の可能性を広く考えることができるのです。例えば、住宅設備メーカーが未来の住宅設備を考えるというプロジェクトを手掛けているとします。住宅設備メーカーですから、既に現状は相当理解していると思いますが、今一度徹底して現状を、MECEの発想法を利用して未来を考えるという前提で、見直して見るということがあると思います。現状の住宅設備で、最も費用が掛かるのが、水回りです。また住宅設備以外にも水の給排水の設備は費用が多くかかっています。現状の住宅では「水を使う」が大前提になっていますが、MECEを使うと「水を全く使わない」というオプションが見えてきます。また「水を全く使わない」の構成要素として、「水は使うが他の液体を使う」が出てくるかもしれません。更に「液体を使う」なら、「気体を使う」が出てくるでしょう。更に「気体を使う」なら「気体を使わない」すなわち真空を利用するなども出てくるでしょう。

もちろんこのMECEで発想したものが、未来のシナリオとして全て当てはまるわけではありません。後に適切な評価軸、例えば技術的な実現性を設けて、その評価に照らし合わせて可能性の高そうなものを、選ぶという作業が続きます。

このように、MECEを発想法として利用することで、「水を使う」という前提(現状)の把握から、そうではない未来を構成する可能性の要素が次から次へと芋蔓式に発想を広げていくことができるのです。

(浪江一公)