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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第208回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(55): KETICモデル-経験(5)
「未来を経験する(4)」

(2019年6月10日)

 

セミナー情報

 

現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の議論をしています。前回から「未来を経験・体験する」ための3つの方法の内の1つ、「現状での最も未来に近い最先端を経験する」の中の「○両極端の環境下での人の営みを経験・観察する」を議論していますので、今回もその議論を続けたいと思います。

○両極端の環境下での人の営みを経験・観察する

-住環境・住生活

先日テレビ番組で、自分で住宅を持たない、借りないで過ごす人達がいるという内容で放送をしていました。 その番組で紹介された一人は、IT企業に勤める会社員で、交友関係が広がるなどメリットが多く、独身である彼は独身期間はこのライフスタイルを続けたいと語っていました。また、その番組のコメンテーターは、自分にも同様の生活をしている部下が2人いると語っていました。また、その番組で紹介されたのはある新婚の夫婦で、彼らは自動車で日本中を回り、その自動車の中で生活をし、各地のレポートをすることで生計を立てているとのことでした。これらの人達は、住環境・住生活において、「ホームレス」という先端のライフスタイルを積極的に選択している人と言えます。

また、これもテレビ番組(別番組)なのですが、世界各国(先進国)の駅や空港にピアノが置かれ、そこに立ち寄り自由にピアノを弾く人の人生を語るという番組があります。そこで私が驚いたのが、その中の少なからずの人が失業中のホームレスであること、またホームレスというイメージとは異なりさっぱりした身なりをしているということです。彼らは、自分達の意図に反し、ホームレスを強いられている人達ですが、ホームレスのイメージとは異なり、最低限以上の生活をし、ある意味会社や家族に縛られない、自由な時間を過ごしていると見て取れました。

後者に関し、私が30年以上も前に、ある大阪の会社に勤務していた時のことが思い出されます。私は、健康のため一つ前の駅で降り、一駅分を歩いて通っていました。その途中、大通りをまたぐ大きな陸橋があり、ある夏の朝、その陸橋の上でホームレスが実に気持ちよさそうに段ボールの上で寝ているという場に遭遇しました(彼はアカまみれでしたが)。その時、会社に着けばストレスに溢れる仕事が待っている私は、ホームレスが実にうらやましいなと感じたのです。今でもその場面と私の気持ちを鮮明に覚えています。

このホームレスに関する2つのことから思いついたことに、積極的に選択しようが、その選択を強いられようが、ホームレスというライフスタイルが今後増えていくのではないかということです。ホームレス生活からは、大きな自由が得られ、また仮にその選択を強いられてもそこからイメージする悲惨な人生ではなく、ある程度のレベルの生活を送ることができる。そう考えると、ホームレスというライフスタイルは今後増大し、社会全体、住宅、宿泊施設、食生活、更には自動車にも大きな影響を与えるライフスタイルになるのではないかということです。最後の自動車に関しては、無人運転の技術の進展と共に、自動車の中で生活する人が生まれるのではないかと思います。

そこで私が勧めることが、未来を予測するために、ホームレスの生活を経験することです。その際、様々なバリエーションを設定して経験することは重要と思います。例えば、自ら積極的にホームレスを選択するライフスタイルと、強いられてホームレスを選択するのでは、まったくその前提(例えば経済力)が異なります。また独身者のみならず、家族を持っている人もホームレスを経験することで、家族と離れてホームレスで一人で生活する場合、家族とのコミュニケーションはどのようになるのかを体験することができます。また先進国でのホームレスの生活と、途上国でのホームレスの生活では大きくことなると思います。

次回もこの議論を続けていきたいと思います。

(浪江一公)