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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第197回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(44):KETICモデル-知識:自社の強み(1)

(2018年12月25日)

 

セミナー情報

 

前回まではKETICモデルのK(Knowledge)の知識の3つの要素、すなわち「技術知識」、「市場知識」、「自社の強み」の中の、市場知識を10回にわたり議論してきました。今回から、3つ目の「自社の強み」について議論をしたいと思います。

●「自社の強み」抽出の視点:VRIO
多くの企業において、自社の強みを見極めるニーズは大変大きいということがあります。しかし、「自社の強み」というと自社のことであるため、簡単に抽出できるように思えますが、必ずしもそうではありません。ここでの問題が、何をもって「自社の強み」とするかによって、その内容は変わってしまいます。この問題に関し、米国のビジネススクールの教授であるJ.B.バーニーは、「自社の強み」の定義を以下の4つと定義しており、この定義は「自社の強み」を明定する場合に広く使われていますので、紹介したいと思います。

○経済価値:Value
まずその強みが、自社の経済価値、すなわち収益に結び付かなければならないということです。ここでは、企業における強みの議論をしていますので、企業が収益を挙げることで存続し続けている以上(この点に関しては誰も疑問はないでしょう)、その強みはまさにその点に貢献しなければならないということです。

この点は、多くの企業での「自社の強み」の議論で忘れられている点です。自社の能力の水準ばかりに目が行きますが、「経済価値」としてここで示されているように、そもそもその自社の強みは、何のためにあるのかを明確に認識し、そこへの貢献の視点で定義する必要があります。

○希少価値:Rarity
「自社の強み」というと、その能力における「自社の水準が高い」ものというのは、誰しも考える定義です。それをVRIOでは、2つの要素に因数分解しています。その内の1つ目が、「希少価値」です。まず自社の水準が高いとは、そのような能力は他社が持っていないという状況です。すなわち自社の能力が世の中で「希少」であるということです。自社がその能力が強いと認識していても、他社も同様に強いのであればそれは強いということにはなりません。

○模倣困難性:Imitability
因数分解の2つ目の要素が、模倣困難性です。いくら自社のその能力が「希少」であっても、その能力が他社が真似ようと思えば簡単に真似することができるのでは、その能力は強いとは言い難いのではないでしょうか?そこで出てくるのが、その能力の模倣が困難であること、すなわち模倣困難性です。

それでは模倣困難性はどうやって実現できるのか?この点に関しJ.B.バーニーは、経路依存性、因果関係不明性、社会的複雑性を挙げています。

経路依存性の例に、ワコールの女性の体形データの蓄積があります。ワコールは過去から一人一人の女性の体形の経年変化のデータを多数保有しています。競合企業でもお金を掛けさえすれば、現時点での多数の女性の体形データは収集できますが、経年変化のデータの入手は短期間では不可能です。

因果関係不明性の例には、トヨタのカンバンがあります。カンバンというのは、生産において川下の工程から川上の工程への生産指示情報を記述したカードであるわけですが、トヨタ生産方式を作りあげた大野耐一氏は、原理としてはあまりに簡単すぎるために、簡単に米国の自動車メーカーに模倣されてしまうであろうという心配から、米国の自動車メーカーにとって意味不明するために、敢えてカンバンという名称を付けました。

社会的複雑性の例に、カンバン方式を含めた、トヨタ生産方式があります。トヨタ生産方式の内容は、現在では様々な出版物も出され、またトヨタ生産方式のコンサルタントも多数存在しています。しかし、その通りにやっても、なかなか継続的に進めることは難しいものです。現実には、単に業務プロセスだけでなく、一人一人のカイゼン活動への取組姿勢やそれを醸成している企業文化など複雑なマネジメントができて、初めて効果を発揮するというものです。

次回は4つ目の「組織:Organization」の議論を含め、自社の強みの議論を続けたいと思います。

(浪江一公)