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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第195回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(42):KETICモデル-知識:市場の知識(9)

(2018年11月26日)

 

セミナー情報

 

現在、本メルマガ記事ではマクロ環境分析の議論をしていますが、今回は、PESTEL(Political:政治、Economical:経済、Societal:社会、Technological:技術、Environmental:環境、Legal:法律)のうち、5つ目の環境についての議論をしたいと思います。

●How(「自社」の取組の変化の要因)で脅威を生み出す「環境」

これまで、マクロ環境変化には、その影響の対象としてWhat(「市場」ニーズ変化の要因)とHow(「自社」の取組の変化の要因)があるという議論をしてきました。その中で「環境」は、これまでHow、すなわち企業活動の多くの面で、明らかに政府の規制やステークホルダ(自社が健全な経営を行う上で対処しなければならない様々な関係者)からのプレッシャーなどにより制約を生み出すもので、その結果、全ての業界において、環境問題はその対処のために追加的な費用を発生させてきました。たとえば、製造業においては、環境対策への追加設備が必要ですし、小売業では割高な環境対応の包装材料の採用が求められるということが起こっています。

この面から「環境」は、長年企業においてはHowにおける負担を増やすだけであると認識され、企業の間ではもっぱら脅威として扱われてきました。

●What(「市場」ニーズ変化の要因)で機会を生み出す「環境」

一方で、目を市場、すなわちWhatに向ければ、市場においては政府の規制やステークホルダからのプレッシャーは環境問題への対処の必要性という形で、新たな市場ニーズ、すなわち機会を生みだしています。例えば地球温暖化対策として再生可能エネルギーの分野は急成長し、従来の化石燃料や核燃料を燃料とするエネルギーを代替するようになってきています。またEV(電気自動車)は従来のICV(内燃機関利用自動車)を長期的には代替します。更には、中国やインドの都市部でのPM2.0のような大気汚染への対処は、マスクのような商材の大きな需要を生み出しています。

もちろん従来の製品、例えば内燃機関エンジンメーカーにとっては、「環境」は市場縮小という脅威を生みだしていますが、Whatの面では、「環境」は総じて今後巨大市場を長期にわたって創出するものの認識されるようになってきています。

●「Howで脅威を生み出す「環境」」を大きく変えるESG投資

以上のように、全体としては「環境」は、Howでは脅威を、Whatでは機会を生み出すと認識されています。そして、社会・経済全体の総体として「Howにおける脅威」<「Whatにおける機会」という関係が存在する分野で、環境関連の市場が拡大してきました。しかし、この関係を更に市場を拡大する方向に大きく変えるマクロ環境変化が、今起こりつつあります。その1つがESG投資です。

ESGとはEnvironment、Society、Governanceの頭文字を取った言葉であり、ESG投資は近年話題を呼ぶようになってきています。ESG投資とは、きちんと環境問題・社会問題への対処を行い、そしてきちんとしたガバナンスを持って経営を行っている企業を対象に、機関投資家などが積極的に投資を行う活動のことを言います。

すなわち、Howの面で従来コストとして扱われてきた「環境」を前向きに捉え、積極的にその解消に向けての活動を行えば、機関投資家からの投資の増大により、「環境」のHowにおける脅威を機会に転化することができるという状況が生まれてきているのです。

●更にはCSV(Creating Shared Value)

CSVとは、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が唱えている概念です。それは、企業が環境面を含め社会的価値のある活動を行うことで、企業も同時に収益を挙げ、両者がWin-Winを実現できるという概念です。Whatの分野で、環境対応製品を生産・販売して企業が収益を挙げるというのは、誰でもわかる概念です。しかし、このCSVの理解において重要なのは、従来と同じ製品を生産・販売をしていても、Howの分野で環境問題に積極的に対処することで、企業の収益が向上するという点です。それは、購買者(ESG投資においては機関投資家だけの議論であったものが)がその企業の環境対応の姿勢や活動を見て、同社の製品の追加的な価値を認識して、製品を購買してくれ売上が拡大することや、それ以外にも、企業がその課題に積極的に取り組み、イノベーションを起こすことで、実質的に社会的価値のより大きな製品を低コストで実現することができるようになることです。

以上から、環境におけるマクロ環境分析を行う場合、Whatでの機会創出機会に目を向けるのはもちろんのこと、従来Howは脅威を生み出すものであったものが、その対応いかんによっては新たな価値を生み出し、大きな機会にもつながる点を十分理解して行う必要があります。

(浪江一公)