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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第190回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(37):KETICモデル-知識:市場の知識(4)

(2018年9月17日)

 

セミナー情報

 

前回から市場の知識を得る方法として、マクロ環境分析のPESTEL分析を議論しています。今回も前回に引き続き、同様のテーマを議論したいと思います。

●デイヴィッド・イーストンの政治システムの定義

カナダ生まれの米国の政治学者のデイヴィッド・イーストンは、「政治システムを「外部環境」から「入力」 (要求や支持) を受け,それを権威的な「出力」 (決定や政策) に変換するフィードバックの過程」(ブリタニカ国際大百科事典)ととらえました。ここでイーストンの言うフィードバックは、決定や政策を外部環境にアウトプットした後、更にそれに対し外部環境からのフィードバックとしてその要求や支持が入力され、このようなフィードバックを繰り返すことで、政治が最適化されるというものです。

以下に、このイーストンが定義した政治システムの「外部環境」と「入力の出力への変換システム」について議論したいと思います。

●P(Political:政治)における「外部環境」とは

ここで、外部環境とは、まさにPやLを含むPESTELのそれぞれの項目と考えられます。

○「外部環境」としてのP(Political)
Pはここでは、イーストンの政治システムの定義に基づき、「外部環境」と「入力の出力への変換システム」を分けて議論をしていますので、「外部環境」は、「入力の出力への変換システム」で定義される部分以外、つまり政治団体とその活動や政治思想・イデオロギーと定義するのが良いと思います。

政治団体とは基本的には政党や労働組合をなどの政治活動をする団体を意味します。このような政党や労働組合がイノベーションに直接、間接に影響を与えた例として、日本で旧民主党政権時代に前向きに検討されていた環境税の導入が、政権が自民党に復帰して立ち消えになってしまった例や、ドイツなどの緑の党などが、環境政策に大きく影響を与えている例、また米国のAFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)などが、政治を通して経済政策に影響力を持つ例があります。

また政治思想やイデオロギーに関しては、例えば中国の共産党一党独裁体制が仮に崩壊したとすると、世界の様々な局面に大きな影響を与えるでしょう。

○「外部環境」としてのE(Economical)
経済に関しては、Pの入力として極めて大きな影響力があります。例えば、経済が過熱していれば、公定歩合を調整して、経済の過熱を抑えるなどの経済政策を講じる必要があります。

○「外部環境」としてのS(Societal)
社会も経済と同様に当然のごとく、政治に大きな影響を与えます。少子高齢化により、労働人口が減少すれば、政府は労働人口を増やすための様々な政策を実行しなければなりません。

○「外部環境」としてのT(Technological)
技術に関しては、例えばAI技術の研究開発が今後世界中で進み、社会や経済の様々な局面で利用されるという見通しがあれば、当然のごとく、国全体としても政策という手段を使って、AI技術の研究開発に力をいれなければなりません。

○「外部環境」としてのE(Environmental)
環境に関しては、社会における環境の重要性が高まり、その結果日本においては環境庁が環境省に格上げになった等、政治の入力となる例は近年数多くあります。

○「外部環境」としてのL(Legal)
Lはまさにイーストンの政治システムのフィードバックに相当します。政治システムの出力としての政策や法律は、上のPESTEで表された外部環境の中で導入され、そこからフィードバックを受けてまた政治システムの入力になるという関係にあります。

次回は、イーストンの定義する政治システムもう一つの部分、「入力の出力への変換システム」、つまり政治制度(政治機関と政治制度)について議論をします。

(浪江一公)