Top
> メルマガ:『価値づくり』の研究開発マネジメント

 

『価値づくり』の研究開発マネジメント

第168回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(15):社内にある「常識」の棚卸

(2017年10月30日)

 

セミナー情報

 

前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の「常識の正体の理解」について議論しました。今回は2つ目の「社内にある「常識」の棚卸」について、議論をしたいと思います。

●エドワード・デノボの発言

水平思考の研究で有名な、エドワード・デボノはその著書、「水平思考の世界」の中で、以下のように述べています。

「このような支配的アイデアの影響から逃れるには、いったいどうしたらよいのだろうか?それは水平思考の巧みな技術を用いて、現状を支配していると思われるアイデアを意識的に取り出し、明確にし、その弱点を非難することである。」

ここではデボノは「支配的アイデア」を常識に囚われたアイデアと定義しており、そのような常識に囚われたアイデアの「弱点を非難すること」が重要と主張しています。しかし、むしろ一歩進めてその基となっている「常識」を明らかにして、その問題点を議論することが良いのではないかと思います。つまり、社内にある「常識」の棚卸をし、評価することです。

●社内にある「常識」の棚卸の方法:「ばかり分析」

私は以前ある企業の中期経営計画策定をお手伝いしましたが、そのプロジェクトの中で策定した計画の社長報告会に出席する機会がありました。その企業は戦前からある通信分野の中核となる装置の専門メーカーですが、その企業の社長が「うちは大型の○○『ばかり』やっているが、もっと小型の○○をやるという考えはないのか?」と発言をする場に遭遇しました。そこで私はハタと気が付いたことが、この『ばかり』という言葉です。組織にはこの『ばかり』、すなわち思考と行動を制約している「常識」が沢山あり、その「常識」は長い期間(この会社の場合は戦後70年間ずっと)会社の中の強い思考の制約事項として存在しているんだ!、という気づきです。

そこで私は社内にある常識を白日の下にさらし出し、皆で多少のユーモアを交えてその『ばかり』に距離を置いて客観的に議論するのが面白いのではと考え、それを「ばかり分析」と名付けました。分析という名前を付けていますが、別に特別な分析法ではありません。ブレーンストーミングの手法を利用して以下の活動を行うというものです。

-少人数のグループで社内の「ばかり」をブレーンストーミングを利用して沢山挙げる 。
-その中で、組織に「広く」、「強く」、「長く」存在している『ばかり』を、参加メンバーによる投票により選ぶ。
-選ばれた「ばかり」のメリットとデメリットを議論し、そのデメリットの存在や大きさを皆で実感する。

●「ばかり分析」の3つの効果

この「ばかり分析」には3つの効果があります。

まず1つ目は、「常識」には明確にメリットがあり、そのメリットがあるからこそ「常識」が組織内に醸成されるものだが、そこには必ずデメリットがあり、それが組織の構成員の思考を制約しているというメカニズムの存在を理解することです。

2つ目は、具体的な常識の存在を皆で共有し、それらの常識に縛られないようにすることを促すことです。

3つ目は、現実にはこの「ばかり分析」をいくらやっても、社内の『常識』を全て挙げるというのは困難ですので、社内にはこのような「常識」が沢山ある」ことを認識し、そのような様々な常識にとらわれないように、これから気を付けて思考・行動しようという意識を植え付けるというものです。

この「ばかり分析」は、簡単な分析ですので、皆さんもやってみてはいかがでしょうか?

(浪江一公)