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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第166回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(13):組織の抵抗-「常識の呪縛」

(2017年10月2日)

 

セミナー情報

 

前回はイノベーションを創出するのも阻害するのも、その要因が組織の抵抗という話をしました。今回はその組織の抵抗の議論をしたいと思います。

●イノベーションのありか 「非-常識」

イノベーションの定義を「今まで存在しなかった大きな顧客価値の創出」と定義しましたが、前半の「今まで存在しなかった」を実現するもっとも確実な方法は、誰もが考える常識を外れた「非-常識」に取り組むことです。「常識」の周辺には、様々な企業や人が群れています。そこでは「今まで存在しなかった」を見つけることは困難です。

この点は、冷静に考えれば当たり前のことではありますが、現実には組織の力は真逆の方向に向かいます。つまり、「常識に反している」という組織の抵抗です。しかし、多くのイノベーションが「常識」を否定して進めることで実現しています。例えば、有名なウォークマンは、創業者の一人の井深さんが、大半の社員の「テープレコーダーは録音機能がついているもの」という常識を押し切り、大ヒットをしました。ホンダのエアバッグも、エアバッグを瞬時に膨らませるための「火薬は危険」という「常識」ため、組織の強い抵抗を受けましたが、担当者はその抵抗に抗して成功させました。

●なぜ人間は「常識の呪縛」に囚われるのか?

このように「常識」はイノベーションの最大の敵であると言えますが、なぜ人間は「常識の呪縛」に強く囚われるのでしょうか?そこには、人間の本能にまで関係する根深い理由があるように思えます。

○「常識」を生み出す「学習」は、人間のサバイバルに欠かせない本能

人類は置かれた環境から「学習」をすることで、厳しい環境を生き延び、進化してきたと言えます。この「学習」の結果生まれるのが「常識」です。組織が学習して「常識」を獲得するプロセスはこうです。最初は、個人が何かサバイバルに関わるような新しい重大なことを経験すると、そこから対応策としての仮説を作ります。数回の仮説創出、検証、修正のサイクル、すなわち「学習」により、個人レベルで新たな環境に対処すべき「常識」が作られます。そしてそれが組織内で共有化され、日々の環境の中で更に検証されることで組織の「常識」になり、それが組織がサバイバルする対応策として組織内に定着します。

そこで組織は敢えて思考停止になります。なぜなら、一々思考しなくて良い状況、すなわち「常識」を生み出すことが本来の学習の目的であるからです。サバイバル環境下においては、人間や組織は次から次へと生存を脅かすような事象が発生し、限られた脳力をそちらに振向けなければなりません。このようなプロセスにより、「常識」は組織内に極めて強固な固定観念として定着します。

○「常識」に従っていれば組織の反対に遭わず、また責任も回避できる

一度組織の「常識」になると、その「常識」に基づき行動することが最も効率的になります。逆に「非-常識」に行動することは、大きなコストを招来します。「非-常識」に行動すると、組織の強い抵抗に遭遇し、その抵抗に抗して行動するには大きなエネルギーが必要となります。なぜ組織が強く抵抗するかというと、そのような行動は組織の最も大事な組織の存続を損ねる可能性があるからです。一方で、組織の「常識」に従っていれば、組織の協力を得ることがより容易になります。

また、そのために組織の構成員は、なにか行動を起こし仮に結果的に失敗しても、組織の「常識」に従ってさえいれば、責任を回避することもできます。

このように、組織構成員にとって「常識」に従って行動するメリットには、極めて大きなものがあります。

●常識の問題点

しかし、常識には問題があります。

○「四角い部屋を丸く掃く」

仮説は全ての環境下で検証されたものではないことです。あくまでそれまで遭遇した限定された少数の環境の中で、検証されているだけです。本当はその環境は四角い部屋なのに、丸く掃いているだけなのです。掃いていない、四隅のx角が必ず存在します。

○「部屋は変化する」

加えて、現在の変化の厳しいビジネス環境下では、前提は変化するのが常であり、過去の仮説と検証によって作られた「常識」はもはや現状では当てはまらない可能性は大きいのです。つまり、四角い部屋がひし形や台形になったり、更には部屋自体の場所が変わることもあるのです。

●「常識を疑う」の価値

良く「常識を疑え」と言われますが、以上からこの言葉はイノベーション実現のために、大変重要な教えと言えます。他の大半が「常識」と考えている訳ですので、彼らはそれらに疑問を呈さずに行動しています。まさに自社にとってはチャンスです。誰もが考えなかったイノベーションのネタが、そこに存在している可能性が高いのです。

(浪江一公)