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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第157回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(4):3Mの定義

(2017年5月22日)

 

セミナー情報

 

今回は、イノベーションに基づく経営で有名な3Mのイノベーションの定義について、議論したいと思います。

●3Mのイノベーションの仕組みの普遍性

私はコンサルティングやセミナーで3Mのマネジメントの事例を示すことが多いのですが、時々クライエントやセミナーの参加者の方々から「また3Mの話か」や「うちの会社は3Mとは違う」という反応があります。前者に関して言うと、確かにメディアが3Mのイノベーションの事例を紹介することは多いものです。

しかし、私のこれまで得た3Mの知識から言うと、3Mはイノベーティブになるにはどうしたら良いかを、創業以来長い時間をかけて徹底して考えてきており、またそれを実際に実行に移し、大きな成果を挙げてきた企業です。また世界で最もイノベーティブな仕組みを持つ企業が3Mであると言えます。また、その仕組みを見ると、全てが多くの企業においても当てはまる普遍的な論理を持ち、またそれゆえ他社にも大きな示唆を与えてくれるもので、私はイノベーティブになろうとしている企業の全てが、そのための全体像およびその部分を設計する過程において、是非参考にすべき事例と考えています。

●イノベーションを企業の存続・成長の基盤としている企業:3M

なぜ3Mは、経営陣や社員の大きな時間とエネルギーを注いてこのような活動を長年に渡って続けてきたのでしょうか?それは、3Mはもちろん製品を作り、販売しているメーカーではありますが、製品はその仕組みとその仕組みに則った活動の結果に過ぎず、3Mという企業の本質は、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」にあるからです。

紙やすり会社の方には失礼な言い方になってしまいますが、なぜ単なる紙やすりの会社だった企業が、あれだけ世界中から賞賛されるのか?それはまさに3Mの製品の背景には、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」という賞賛されるべき要素があるからです。

●3Mのイノベーションの定義:「顧客価値を創出して初めてイノベーション」

それでは3Mはどうイノベーションを定義しているのか?3Mが社員向けに発行した書籍に「A CENTURY OF INNOVATION」というものがあります。この本は3Mのイノベーションの歴史を著わしたものですが、その中に、3Mのイノベーションの定義として、
「3M is innovative when it gives its customers solutions to their problems.」(3Mは顧客の問題を解決して初めてイノベーティブであると言える)や
「Innovation occurs when invention meets commercialization.」
(イノベーションは発明が商品化と出会った時生まれる)というものがあります。

2つの文章のいずれもが、イノベーションは顧客のとっての価値を創出して初めてイノベーションであることを言っています。日本ではイノベーションは「技術革新」として説明され、『技術』がイノベーションの真ん中に位置していますが、3Mでは『顧客価値創出』がイノベーションのキーワードとして定義されているのです。

●イノベーションのWhatとHow

私は、イノベーションには、どのような新しい価値を創出すべき(What)と、既に自明な価値をどう実現すべきか(How)の2つがあると考えています。上で議論した日本で良く定義されるイノベーションの定義である「技術革新」はHowに重きを置いています。しかし、3MのイノベーションはWhatに重きを置いているのです。

この重きの置き方の違いは、マネジメントにおいて根本的な部分で大きな違いを生み出し、結果として収益にも大変大きな違いを生み出します。この点については、大変重要なテーマですので、また改めて議論したいと思います。

(浪江一公)