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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第120回:価値づくりに向けての三位一体の技術戦略(その1)

(2015年11月30日)

 

セミナー情報

 

これまで本メルマガでは、『価値づくり』に向けてコア技術戦略とオープン・イノベーションの関係を議論してきましたが、私はこれら2つに市場志向を付け加え、「市場起点の思考と活動」、「オープン・イノベーションの徹底」および「コア技術戦略の追求」の3つの要素による、「『価値づくり』に向けての三位一体の技術戦略」を提案しています。

●なぜ三位一体か?
なぜ三位一体なのかというと、『価値づくり』を実現し、その結果高収益を得るには、これら3つの要素から構成される技術戦略が必須であり、加えてこれら3つの要素は互いに密接な相乗効果的関係を持つからです。

以下に、なぜこの3つの要素により、高収益を実現することができるかを説明します。

○「市場起点の思考と活動」

まず高収益を実現するには、市場という場で、その充足により大きな顧客価値を生み出す対象としての市場ニーズを見つけなければなりません。なぜなら、顧客が認識する価値の大きさが、顧客が支払ってもよいと思う対価を決め、最終的に自社の収益の多寡を規定するからです。しかし、市場でそのような機会を見つけることは容易ではなく、またその方法にはマジックはありません。王道はあくまで市場を徹底して理解する活動を継続して続けることです。顧客価値を認識しその大きさを決めるのは、自社ではなく、顧客です。いくら自社が市場の知識なしに提供すべき顧客価値を想定しようと努力しても、その効果は極めて限定的です。ですので、自社が机上で考えるのではなく、市場の現場に身を置き、市場やその構成者である顧客を理解しようとする活動を積極的にかつ継続的に行うことです。それがまさに「市場起点の思考と活動」です。

○「オープン・イノベーションの徹底」

しかし、そのような「市場起点の思考と活動」により市場で見つけた市場ニーズを充足し、顧客価値として実現するには、自社の自力だけで事足りる可能性は低いのです。なぜなら、規定される市場ニーズは、自社の都合や能力とは独立して存在し、それが起点だからです。ですので、そこには自社には欠けた技術や能力が必要とされるのが普通です。そのような場合、一から自社でそのための技術や能力を構築していては、競合企業にその実現機会を奪われてしまいます。そこで、必要なのがそういった技術や能力を既に持つ企業を探し、その機能や能力の提供を受け、早期に製品・サービスを実現し、上市することです。それがまさに「オープン・イノベーションの徹底」です。

○「コア技術戦略の追求」

しかし、とは言いながらも、自社の強い技術や能力がないところで、他社の力を借りて製品やサービスを実現しても、高い収益は期待できません。なぜなら、自社が保有する能力の顧客価値創出への貢献度が、その製品・サービスの利益率を規定するからです。そのために、自社が強い能力・技術を常に保持しておく必要があります。またその強い技術は、できるだけ広い適用範囲を持ちまた、その数はできるだけ多い方が良いのです。なぜなら、その3つがあれば、「市場起点の思考と活動」に広がりが生まれ、広い領域から顧客価値の提供機会が創出され、そして大きな収益をもたらすからです。それが「コア技術戦略の追求」の部分になります。

つまり、自社のコア技術を設定し、常にそれを意識し、そのような強みが使える市場での機会の発見の努力を行い、大きな顧客価値創出機会が見つかった場合には、自社に欠けている技術や能力をオープン・イノベーションで見つけ、早期に自社のものとすることです

。以上の3つの要素により、『価値づくり』が実現できるのですが、実はこれらに加えて、3つの要素間には互いに相乗効果的な関係があります。これらの相乗効果については次回ご紹介します。

(浪江一公)