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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第92回:多様なソースから情報・知識を集める(その7)情報・知識の『源』を多様化する(6):顧客

(2014年10月14日)

 

セミナー情報

 

前回は、「情報・知識の『源』を多様化する」の中の「顧客」、そしてその中の「既存の重要顧客」を対象とした議論をしました。今回も引き続きこの議論をします。

前回は、TAD(Time:時間軸、Area:分野軸、Depth:深度軸)の概念に沿って、既存の重要顧客について、時間軸を長くして見るという話をしました。次は分野軸です。今回はこの2つ目の軸について議論したいと思います。

○既存の重要顧客(分野軸)

既存の重要顧客と言っても、営業的な視点でしか付き合いができていない場合は多いのではないでしょうか?また、仮に顧客とは深い関係を維持していると言っても、先方からの要求でそうなっているだけで(B2B製品の場合)、こちらから主体的に、その顧客をより理解するという視点で、働きかけをしている企業は大変少ないのではないでしょうか?

これは前回の時間軸にも、そして次回議論する深度軸にも共通する話ですが、もちろん最終的に継続的な受注を目的とはするのですが、その目的に向けて革新的なテーマを創出するためにサプライヤーが自ら主体的に多面的に(まさにTADの視点で)、顧客との関係性を活用するという姿勢が大変重要です。また、サプライヤーにとってその点は、未活用な意義の大きな経営資源ということもできます。

分野軸でのコアのメッセージは、顧客をより広い視点で見ようというものです。

重要な顧客といっても、通常は顧客の購買窓口や、せいぜい直接の要求元とコンタクトをしているにすぎません。目先の案件の情報を収集するという面では、それでもある程度は間に合うのかもしれません。しかし、顧客の情報を今後のテーマ創出に生かそうと思えば、それだけでは不十分です。他にも「既存の重要な顧客」の中や回りには、様々な関係者がいます。例えば、自社は顧客が顧客の製品に組み込む部品を提供しているとします。その場合直接の要求部門は顧客の設計部門ですから、そことは当然コンタクトを持ちます。しかし、将来のテーマの情報を収集しようと思えば、もっと川上の研究開発部門とコミュニケーションをとることも必要です。また、顧客の製品を実際に作るのは生産部門ですので、生産部門は設計部門とは異なるニーズを持っているかもしれません。また顧客の製品が実際にフィールドに出た後にサポートを担当するサービス部門は、また別のニーズを持っているでしょう。

そんなことは、本来顧客の設計部門の仕事であり、一サプライヤーが首を突っ込むべきでないという意見があるかもしれません。しかし、それは間違っています。通常組織は、自部門の都合を最優先するように機能します。したがって、顧客の設計部門が他部門のニーズを全て把握しているということは、現実的にはありません。その点は自社のことを考えてもわかるでしょう。むしろ、しがらみのない外部の客観的な目で見た方が良いのです。

それから顧客に関わる情報は、顧客の中だけにあるとは限りません。例えばB2B製品の場合には、顧客の先には必ず顧客の顧客がいます。顧客が顧客の顧客のことを全てわかっているということはありません。この点についても、一部品のサプライヤーが顧客の顧客のニーズなど把握しようがないと考えるかもしれません。しかし、この考えも誤りです。それは十分可能です。例えば、自転車部品メーカーのシマノは自転車メーカーではなく、顧客の顧客である自転車のユーザーに目を向け、自社製品である自転車部品を開発しています。

それから、顧客は他の部品も当然他の部品メーカーから購入しています。自社にとってもこれらの部品(補完部品)やそのサプライヤーについて知っておくことで、例えば、その補完部品の機能を組み込んだ部品を自社が提供し、それにより全体の占有スペースを小さくできる、組み立て工数を削減するという効果がでるなどの可能性もあります。

(浪江一公)