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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第91回:多様なソースから情報・知識を集める(その6)情報・知識の『源』を多様化する(5)

(2014年9月29日)

 

セミナー情報

 

今回は、「情報・知識の『源』を多様化する」の中の、顧客を対象とした議論を続けたいと思います。

顧客といっても、まさに多様です。「情報・知識の『源』を多様化する」ためには、どのような顧客とコンタクトすれば良いのでしょうか?今後、1つ1つ取り上げていきたいと思います。今回は、既存の重要顧客について議論をします。

○既存の重要顧客

顧客の情報を活用する場合、一番手っ取り早いのが、既存の重要顧客の情報です。重要顧客ですので、既に多くを知っていると考えるかもしれませんが、現実には顧客について知らないことは多いものです。第56回(2013年9月2日)にTADという「市場」を見る3つの軸を説明しました(時間軸:Time、分野軸:Area、深度軸:Depth)。時間軸は、市場を長期的な視点で見る、分野軸は広く定義して見る、深度軸は市場(顧客)をより深く分析的に見る、ことを意味します。このTADは基本的に「市場」(複数の顧客から構成)を対象としていますが、個別の「顧客」にも当てはまる概念です。

まず、時間軸ですが、既存の重要顧客とのコンタクトは、目先の受注や売り上げを強く意識してお付き合いしているものです。しかし、顧客を見る時間軸を長くし、この顧客は3年後、5年後、10年後に向けて何を考えているのかを知ろうとすることで、その顧客の見え方が変わってくるものです。そうすると、これは次の軸の分野軸と直接的に関係してくるものですが、既存のコンタクト先とは違う部署とのコンタクトが必要になります。例えば、研究所や技術企画、新事業開発、経営企画といった部署です。これら部署は、普段付き合いのある、開発部門や購買部門より、より長い視野で動いています。多くの企業が、重要顧客と言っても、このような部門と日頃コンタクトを持っている企業は少ないでしょう。

こればB2B企業に限りません。消費者を対象としているB2C企業にも当てはまります。その消費者が、3年後、5年後、10年後にどう変わり、どのようなニーズを持つかに関心を持ち、そのような情報を収集する必要があります。もちろん、消費者の場合には、B2Bの顧客のように、長期の将来を良く考えている別の部署はありませんので、その点は難しいかもしれません。しかし、過去の消費者がどう変わっていったかの記録をとることで、ある程度の可能性を持って、消費者の将来を予測することはできます。例えば、女性下着メーカーのワコールは、女性の体形の変化の実測データを1964年から継続的に収集しており、現在では4万以上のデータを蓄積しています。

時間軸には、上の別の新しい製品アイデアを求めて、顧客の将来のことを考えるという軸の他に、既存製品を購入した後、そしてその前の検討段階にも、その製品について顧客はどのような活動を行い、どのようなことで困っているかを考えるという時間軸もあります。米国の会計ソフトのメーカーであるイントゥイットは、顧客が店舗で会計ソフトを探す段階から、観察をし、その後購入後も、自社のソフトを店舗で購入した顧客に頼み込み、その顧客が家にそのソフトを持ち帰り、封を開け、使い始める所から観察をするといことをしました。顧客が製品のサプライヤーと強いコンタクトを持つのは、その製品を買うまでの比較的短い期間です。したがって、このような環境においては、サプライヤーは顧客のことを知る機会は限定されています。しかし、顧客はその製品とは、購入を決定する前から、そしてその製品を購入してから、随分長い期間その製品(やその製品が生み出した成果)と付き合っていくのです。サプライヤーにとって、これら見えていない期間は、未知の情報であふれています。これら情報を収集し、活用しない手はありません。

ただし、既存の重要顧客だけの情報を利用していると、まさに自社の多様な情報の活用を阻害し、市場を見誤る可能性が大きくなります。既存の重要顧客の意見は、受注に結び付く可能性が高いため、どうしてもすぐに飛びついてしまうという危険性を持ちます。常に、市場の情報の1つに過ぎないということを念頭において、それら情報を活用する必要があります。

(浪江一公)