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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第90回:多様なソースから情報・知識を集める(その5)情報・知識の『源』を多様化する(4)

(2014年9月16日)

 

セミナー情報

 

前回に引き続き、「情報・知識の『源』を多様化する」の中の、社内全体を対象とした議論を続けたいと思います。

それでは、社内全体を対象とした「情報・知識の『源』を多様化する」ための具体的な有効な手段には、どのようなものがあるのでしょうか?以下に1つ1つ取り上げていきたいと思います。

○社内他事業部門・グループ企業訪問

日頃研究所の研究者は、当然直接関係する事業部門とはかなり密接なコミュニケーションをとっています。しかし、関係のない担当外の事業部門とはほとんどコミュニケーションがないというケースが多く、企業規模が大きくなればなるほど、この傾向は強くなります。

しかし、これまで議論してきたように、これまで関係がないと思っていたところに、新しい組み合わせが発生する可能性があるわけで、研究所の研究者には関連がない(と思っていた)事業部門とコミュニケーションを行うことは有効な活動です。

そのための方策の1つが、研究者が他の事業部門を訪問し、工場見学やその事業や技術の説明を受け、加えて共同でのテーマ創出の可能性などを議論することです。ここではテーマ創出議論の目的は、すぐに良いアイデアがでる訳ではありませんので、あくまでその事業部門の事業、市場、技術などを理解することと、その事業部門とのコミュニケーションのきっかけを作ることを目的とするのが現実的です。

極めて単純な方法ですので、私もクライエントにこの提案をしています。

このような活動は、すぐに成果を生み出すわけではありませんので、従来の価値観から言えば、「忙しいのに何をやっているんだ」、と言われてしまうような活動です。しかし、これに限らず、イノベーションを起こすには、辛坊強く一見無駄に思えるようなことも積極的に取組むことが重要視されています(冗長性はイノベーションのキーワードです)。

受け入れをする事業側にとっても、常日頃の顧客やパートナーへの対応と同じような受け入れをすれば良いだけですので、受け入れに特に大きな負担は発生しないでしょうから、早速、研究所(研究開発本部)から事業部門に提案をしてはどうでしょうか?

○技術内覧会

近年、研究所の技術を定期的に社内やグループ企業を対象に紹介する場として、技術内覧会を開催する企業が増えてきています。直接関係のある事業部門だけではなく、他の部門の人達に研究所の活動内容や手掛けているテーマを紹介することは、今後のテーマ創出にとって意義のあることです。また研究者の立場からも、担当する技術や周辺分野に関し、より市場に近い様々な領域の担当者から情報を収集する機会としても有効です。

○テーマ・アイデアの社内公募

この活動は、後に議論をするメンバーの多様化と重複する活動ですが、社内でのテーマの公募も、社内に散らばる情報や知識を活用する有効な方法です。テーマの公募の経験のある企業は、意外と数多くあるように思えますが、継続的に筋のよいテーマを創出していることに成功している例はあまり聞きません。

理由は、企業側がしっかりした、長期に取り組む姿勢と、戦略を持っていないからではなかと思います。例えば、対象分野は問わないということになれば、企業の活動とは相当かけ離れ、自社が手掛けるには相当なギャップがあるテーマが出てきてしまいます。その結果、公募側は、提案内容に対し、本気になって検討することも、きちんとフィードバックすることもありません。そうなると、起案側の熱が冷めてしまうとなどということが起こります。

従って、テーマ・アイデアの社内公募を行うには以下の長期的・戦略的な視点が欠かせません。

- 単なる組織の活性化ではなく、新しい事業を創出するためのアイデアを対象とすることを明確にする。

- テーマ創出の前提や対象分野を自社の戦略と直結させる。例えば、対象市場分野や活用すべき自社の強みなどを明示する。

- 公募側は、提案されたテーマには、それがどんなにつまらないアイデアであっても、起案者に誠実・丁寧にフィードバックをする。提案は今回一度だけではないことを、肝に銘じるべきです。

- 表彰により選定されたテーマやその提案者を社内に広く伝え、表彰する。また表彰の社内でのプレゼンスを高める工夫をする(表彰セレモニーには、社長が必ず出席するなど)

- 選定されたテーマは、成功に導くべく積極的な支援を行う。これは会社として社内のアイデアを大変期待・重視をしているというメッセージになる。また成功すれば、社内公募の成功事例としてPRすることができる。

- 長期的な取組とする。1回しか開催しないのであれば、社内公募はうまくいかなかった、会社としては社内のアイデアを重視しないというメッセージとして伝わってしまう。

○組織横断的な横串し活動

前回3Mのテクニカルフォーラムの紹介をしましたが、同様の仕組みを持つ企業は、近年増えてきています。これは、企業全体の主要な要素技術について、社内横断的に、共有・強化することを目的に行われている活動です。現在では、東レ、日東電工など、技術経営に優れた企業で採用されています。1つの要素技術という横串の仕組みを利用して、他の事業部門や研究所とつながることができ、このパイプを通じて、他部門の情報や知識を活用することができます。

このような活動は、要素技術だけである必要はありません。 同じ市場、同じ機能(マーケティング、生産、調達など)、その他具体的な会社のイニシャティブを、横串として利用するという方法があります。このような横串を沢山差すことは有効です。但し、気をつけなければならないのは、成果が生まれないと、忙しい本業外の活動ですので、自然に消滅するということが起こりますので、企業としても、そのメンバーも、本気で取り組む必要があります。

○非公式なネットワーク

これは具体的な目的を持って行う活動ではありませんが、社内に様々な非公式のネットワークを作ることは重要です。私が新入社員で企業に入った時には、社内運動会などがありました。当時は、なぜ会社で運動会などをやるのか懐疑的でしたが、組織を超えたネットワークを社内で作るという意味で、重要な活動であると思います。このように考えると、その他、自然発生的に、同じ出身学校、同じ地域の出身、その他趣味を同じにするグループ等で集まる活動も重要ということになります。一時はなんでも会社という単位で行う活動は、会社人間のすることであるという理由で、批判された時期もありましたが、このような活動は多様なアイデアを集めやすくするという意味で、大変重要ではないでしょうか?必ずしもアイデア創出が目的ではありませんが、トヨタ自動車では、上のような活動を積極的に行うという風土があるようです。

○組織を超えて協力しあう風土の醸成

風土作りは、「言うは易く、行うは難し」の典型の例ですが、それでも、社内で組織を超えて協力しあう風土を醸成していくということは、長期的な経営において大変重要なことであると思います。上で挙げたトヨタ自動車の例では、重要な情報が組織の壁を越えて伝わる風土がありますし、3Mも既にご紹介したように、組織横断的な協力を促進する風土がグローバルな規模で存在しています。

(浪江一公)