Top
> メルマガ:日本の製造業復活の処方箋『ステージゲート法』

 

日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第78回: スパークのための3つ目の原料:要素技術以外の強み抽出法

(2014年3月31日)

 

セミナー情報

 

スパーク(化学変化)により革新的テーマを生み出すための3つ目の原料が、自社の強みです。今回は要素技術(前回議論)以外の自社の強みの抽出法について議論したいと思います。

通常自社の強みは2つのステップに基づき行います。まず最初に強み候補のリスト化を行い、その後にそれぞれの強み候補を設定された強みの評価項目に基づき評価を行い、スクリーニングをします。このスクリーニングで残った強みが自社の強みということになります。

■ステップ1:強み候補のリスト化

●強み抽出の切り口

強み候補は通常ブレーンストーミングを使って出しますが、闇雲に出すのではなく、ある発想の切り口を設けると効果的です。その発想の切り口は、企業の能力を網羅的に捉えたものである必要があります。この発想の切り口については、以下のような既にコンサルティング会社や先人が提示したいくつかの切り口がありますので、それらから適当なものを選んで使えばよいと思います。

○マッキンゼーの7sモデル
企業を網羅的に捉えたものとして有名なのが、マッキンゼーの7sモデルです。マッキンゼーの7sとは、Structure(組織構造)、System(システム)、Strategy(戦略)、Skill(スキル)、Staff(人材)、Style(文化・風土、経営スタイル)、Shared value(経営理念)の7つです。この7つは大きく、ハードのSとソフトのSに分けることができます。ハードというのは、仕組みを言い、ソフトとは、その仕組みの中で動く人や組織のことを言います。ハードのSは前者の3つ、ソフトのSは後の4つを言います。

○アーサー・D・リトル(ADL)のSPROモデル
私が以前に勤務していたADLでは、SPROモデルというものを使っていました。ADLのSPROモデルとは、Strategy(戦略)、Process(プロセス)、Resource(経営資源)、Organization(組織)から構成されます。企業文化が含まれていないということでCulture(企業文化)を追加して、SPROCを使う場合もありました。

○マイケル・ポーターの価値連鎖
有名なマイケル・ポーターの価値連鎖も、強み候補をあげるための網羅的な切り口として使うことができます。ご存知の通り、価値連鎖とは自社の活動を機能(価値)に分割したもので、マーケティング、生産、研究、開発、物流、財務といった機能から企業の価値連鎖が構成されるというものです。一般に会社の組織はこの機能に沿って作られていますので、現実に存在する組織単位で強みを考えることができるので便利です。

上に3つの切り口を紹介しましたが、価値連鎖で機能(組織)毎に強み候補をまず抽出し、その上でマッキンゼーの7sモデルかADLのSPROCモデルを使って、機能ではない視点でも強みを考えるというのが良いと思います。

●内部の視点と外部の視点
強みを発想する場合の視点には、大きく分けて2つあります。内部の視点と外部の視点です。内部の視点についていうと、必ずしもこれから強みを抽出しようという人たちの認識が内部の視点を全てカバーしているということはありません。また、内部だけでは、見えていない強みというものも存在するものです。内部、外部とも広く意見を聴取する必要があります。

○内部の視点
内部に広く網をかけて意見を拾う考え方に、組織的な広がりと時間的な広がりがあります。組織的な広がりというのは、様々な部門の意見、また組織の様々な階層の意見を広く集めようということです。事業部を越えると全く違った強みを自事業部や他事業部に対して認識しているかもしれません。また、入って数年の若手社員と役員とでは、自社の強みの認識には差があるものです。

時間的な広がりについていうと、自社の沿革等過去からの活動にも目を向けましょう。具体的には、過去の自社についてのメディアでの取り扱い記事を見直す、OBにインタビューをする、自社の社内史などに目を通すなどの方法があります。

○外部の視点
自社といっても意外に見えていないものです。そのため、外部の視点から、自社の強みを抽出することは有効です。既に上で触れましたが、メディアの自社の取扱記事はその面で参考になります。またアナリストの自社についての分析レポートなども、過去をさかのぼってみてみましょう。

それからもちろんインタビューも有効です。自社との取引の長い顧客や取引先に対してインタビューすることは、自社の強みについて新たな視点を提供してくれます。また、自社が良く使っているコンサルティング会社や自社の産業を担当している証券アナリストなどへのインタビューからも、価値ある意見を聞くことができます。

以上に加え、全くの第三者、つまり自社には直接的な関係のない人達にネットを使ってアンケートをとることも有効かもしれません。もちろん、自社がある程度世の中に知られていることが前提になりますが。

●強み抽出の議論の仕方

強み候補抽出で出された強みについては、十分吟味しながら丁寧に議論する必要があります。まずは出された強みを誰にも分かるように、適切な文章に「言語化」することが重要です。同じ強みを表す言葉でも、自分が思っていることと、他の人が思っていることが違うということは十分ありえます。この点は私のコンサルティングの経験からも重要です。またそれぞれの強みについては、「言語化」した上で、その強みの具体的な事例およびその強みが生み出す自社の価値についても書いておくことで、その強みがより明確になり、後の評価ステップで迷うことがなくなります。

どのタイミングで強み候補を上のように吟味するかですが、ブレーンストーミングで、出来るだけ強み候補を多く出し、その後KJ法などをつかってグルーピングし、その後に出された強みに関するアイデアを上のように具体化するということが良いのではないかと思います。また、吟味の過程で更なる強みを連想されるということも当然ありますので、そのように追加的に発想されて強みについては、強み候補に加えることになります。

(浪江一公)