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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第72回: 「顧客へのコンサルティングにより顧客を深く知る」

(2014年1月6日)

 

セミナー情報

 

新年あけましておめでとうございます。本年も引き続きステージゲート法を中心に、研究開発テーマのマネジメントについて議論をしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は顧客を深く知るための深度軸の4つ目として、顧客との共同開発を通じての顧客の理解についての議論をしていきます。

●顧客との共同開発の意義

通常顧客との共同開発は、ある具体的な製品なり技術なりの一つの成果を決めて、その成果を目的として取り組むものです。しかし、ここでは顧客を深く理解することを目的に、顧客との共同開発を進めることについて議論します。

以下のディスコの記事の抜粋をご覧ください。

東京・大森海岸にあるディスコ本社を訪ねると、試作品を手にした半導体メーカーの担当者の姿を目にする。彼らの目的は試し切り。新しいウェハーの切断や研削を実験するためにわざわざ足を運んでいる。
(中略)
実験室の数は本社だけで77室。ここに、レーザーやダイシングソー、グラインダーなど主力商品を配置している。年間のテストカットは海外を含めると約3000件。テストカットを通して、半導体業界の技術動向や企業が直面している課題を知ることができる

出所:日経ビジネス2010年7月12日号、「ディスコ、切・削・磨で世界一」

まさにこの記事の中にディスコが毎年多数の顧客と共同開発を重ねることで半導体業界の技術動向や顧客課題を理解しているとあるように、顧客との共同開発をうまく活用することで顧客のことを深く理解することができるのです。

●顧客を知るための『顧客との共同開発』は質より量

通常の具体的な製品や技術的な成果を求めて共同開発を行う場合、共同開発に至る手続きは、知的財産のマネジメント上のリスクなど、共同開発の過程では自社-顧客両者の間で「取引コスト」(*)も存在し、簡単に行なうようなものではありません。したがって、それなりの効果が期待できるある程度の規模のテーマでないと共同開発を進めることが難しいため、自社も共同開発先の顧客もともに慎重にテーマを検討し厳選するというのが普通であると思います。その結果、当然成果(『質』)を期待し、共同開発するテーマ数もおのずと限定されます。

(*) 自社以外の企業などと一緒に活動すること(取引)から発生するコストやリスク。
    例えば、契約書の作成や交渉のための時間やコスト。

しかし、顧客やその業界を深く理解しようとするのであれば、数多くの顧客と数多くの共同開発を行い、顧客や業界を多面的に見る機会を持つことが重要になります。つまり、もちろん1つ1つのテーマの成果を期待しないということはもちろんありえませんが、極論するとむしろ成果の質より量が重要になります。

●顧客を共同開発に『引きずり込む』仕組みの具備

量を追求した顧客との共同開発を進めようと思えば、その為の仕組みが必要です。一件々々共同研究をこちらから『取りに行く』ような活動では、数多くの共同開発の実現は難しいものです。向こうから来てもらうこと、つまり顧客を共同開発に『引きずり込む』ことができるのが理想的です。この点では上のディスコはどうしているかというと、

半導体の進化とともに、顧客の相談は難易度が上がっている。だが、ディスコの技術者はあきらめない。ある方法を試してダメならまた違う方法を考える。「ここの技術者は最後までついてきてくれる」(半導体メーカー主任技師)」

出所:日経ビジネス2010年7月12日号、「ディスコ、切・削・磨で世界一」

つまり、顧客の技術者は困りごとがあれば、「ディスコに聞いてみよう」という気にさせるということです。ディスコでは、そのために自社の技術者の顧客の相談に対しては、難しくても積極的に応えるということを徹底しているのです。もちろん顧客の要求は千差万別ですし、現状の技術には限界があるのですから、全ての要求に100%応えることは現実的にはありえないでしょうが、結果よりその姿勢を問われていうことです。加えて、新しい研究開発テーマを見つけるための活動で、現状の技術ではできないことを見つけることも目的ですので、既存の技術の限界を検討し、既存の技術では達成できないことを見つける活動も重要なのです。

●質より量を追求することで顧客とのコミュニケーションの密度が低下することへの対策

一方で、質より量を追求することで、一テーマ当りの顧客とのコミュニケーションの深さは浅くなるという問題が生まれます。これは、顧客を深く理解することと逆行するように思えます。

この問題に対しては、自社にとっては、複数の顧客を横串で俯瞰的に見ることで、一顧客の理解ではなく、業界全体を見渡すことを重視します。したがって、共同開発から得られた顧客についての知識は、組織全体で共有するようにします。また顧客との共同開発のその時々の会話の中で、自社から積極的に質問を投げかけることにより、その場で相当のことが聞けるようになります。特にディスコのように先方から相談に来ている場合には、その点の質問が大変しやすいというメリットがあります。

●効率的に共同開発を処理する体制

加えて、共同開発の量を追求するのですから、通常の開発を行っている技術者が対応するのでは限界があります。そのためには、ディスコが77もの実験室を持つように、それ相応の体制が必要でしょう。またそのような体制を持つことで、顧客を共同開発に引き込む1つの有力なツールになります。

ただし、箱だけ作って魂が入らないようなことがないように注意しましょう!

(浪江一公)