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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第70回: 「市場と共振する:自社・市場レゾナンス」

(2013年12月9日)

 

セミナー情報

 

ステージゲート法の重要なコンセプトとして自社市場レゾナンスがあります。この方法は、アイデアの創出から市場投入までの全体のプロセスにおいて大きな効果を発揮するものです。本日はこのテーマについて、深度軸の2つ目として議論をしていきます。

●顧客はニーズを認識していない

製品開発テーマ創出においては、顧客ニーズに基づく製品開発の重要性が謳われます。しかし、現実には、顧客は自身のニーズについては認識していないことは多いものです。また認識しているのであれば、それは自社の競合にも伝わっている可能性が高く、その場合は当然市場で競合製品と同じ顧客ニーズの充足を狙って厳しい競争が起こります。

そこで、前回お話ししたようなエスノグラフィなどの手法により、顧客の顕在化する前の潜在的なニーズを探ることをするのですが、エスノグラフィによって捉えたニーズが実在するのか?また、自社がその潜在ニーズに基づき創出したアイデアが本当に顧客満足をもたらすものなのか?については不確定な場合が多いものです。また、また仮に顧客満足をもたらすにしても、より大きな顧客満足を実現する余地は常に残されています。

●顧客に粗いアイデアの段階からそのアイデアをぶつけ反応を見る:レゾナンス(共鳴)

ステージゲート法で重視する活動に、できるだけ早い段階から顧客にアイデアをぶつけその反応を見て、そしてその反応に基づきその製品のアイデアを進化させる(もしくはテーマを中止する)ということがあります。

顧客に何もないところで、「どのような問題をお持ちですか?」と聞いても、あくまで既存製品の延長線上で、既存機能の不具合であるとか価格についての回答に留まることは多いものです。このような質問では、既存製品の改良程度の製品開発しかできません。

そこで既存製品の束縛を超えて、顧客の頭に刺激を与えるような仕組みが必要になってきます。それが、自社で考えたアイデアを顧客にまさに「ぶつけ」、刺激を与えることなのです。この活動により、「こんな製品アイデアを考えているのか!」や「ここは良いけど、こんな機能はいらない。もっとココをこうしたら?」といった反応が得られます。翻って、このような顧客の反応を見て自社の開発者も、「顧客はこんなことを考えているのか!」といった洞察が得られます。私は、まさにこのように顧客がそのアイデアに共振(レゾナンス)してくれ、また自社の開発者もそのような発見に共振するので、この活動を「自社・市場レゾナンス」と呼んでいます。

もちろん顧客からの前向きな反応はありがたいのですが、それ以上にそのアイデアに刺激を受け、なんらかの新しい発想もしくはそれに結びつく何かを引出すことが重要です。従って、初期においてはそのアイデアが完璧である必要性は全くありません。技術者はどうしても完璧を求め、相当製品開発が進んだ段階で顧客に見せたいと考えます。しかし、その段階では、すでに仕様が決まり、相当の開発が進み、投資も行い、既に市場投入の時期がかなり固定的になっています。その段階で、新に得た顧客の意見を反映して、いまさら変更ということは困難です。

あくまで、初期においては、顧客にアイデアをぶつけるのは、アイデアをより進化させる、またはそこから全く別の発想をしてもらうためのものです。開発が相当進んだ段階で見せる目的、つまり顧客の受容性を確認するとは別ものです。この点を十分理解しなければなりません。

●顧客に何をぶつけるか?

初期の段階からアイデアを顧客にぶつけるわけですが、革新的なアイデアほど顧客にとっては新しいので、そのぶつける媒体が顧客にとって分かりやすければ分かりやすいほど、顧客から正しく価値ある反応を引出すことができます。

しかしまだアイデアの段階で、製品としては影も形もないものをどう顧客にぶつけたらよいのでしょうか?

最初の段階でも、技術よりむしろその技術が製品になった場合にどのようなものになるのかを、具体的に示すことが必要です。従って単なる技術スペックだけでなく、その技術を使った製品ができるだけありありとイメージできるものを用意する必要があります。モノがないので、2次元の情報になることが多いのですが、その場合、仮想カタログを作ることは有効です。すでに製品が存在するがごとく、その製品の顧客にとってのメリットや、概観(絵)、仕様の概要、その他PRポイントといったものを、実際に本物の製品のあるがごとくカタログとして示すのです。

通常の営業活動でも、最初は現物ではなく、カタログで営業活動をすることが多いわけで、初期の段階ではこれだけでもかなり有効です。

加えて、商品の形状、大きさ、重さなどが重要である製品は、それを示すだけで、具体性は相当高まります。最近は3Dプリンターが安価で手に入るようになり、このような初期のモックアップを低コストで作ることが可能になりました。

更に一歩進めて、例えば今までと全く異なる使い方の製品、特にB2C製品などの場合には、利用シーンなどをビデオで作成するなどをして示すことも大変有効です。このビデオでの作成も、製品のPR用ではありませんので、その利用シーンが顧客に伝われば良いわけで、専門のビデオ製作者ではなく、その面では素人である製品開発の担当者が作ったものでまったくかまいません。

●ゲートキーパーへアピールする媒体としての機能

この顧客にぶつける媒体は、ゲートキーパーによる評価にも活用できます。革新的なテーマであれば、ゲートキーパーにとっても新しいものであり、その便益を理解しないゲートキーパーがいる可能性があります。その場合、このような媒体は大変有効な成果物(評価の対象)と機能します。

●顧客にぶつけるものも進化させる:リスクマネジメント手法

このような活動を市場投入の直前まで継続して行います。当然、毎回顧客にぶつけるものは、より進化し、また完成品に近いものになっていき、実際に市場の投入する製品は、相当の市場のニーズが反映されたものとなり、成功の確率は高くなります(プロセスの後半ではその製品に対する顧客の受容性を確認する目的となります)。また、相当の投資をした後に製品の仕様を変更するという可能性も低くなります。

このように、この自社・市場レゾナンスは、顧客のアイデアを効果的に収集する、ゲートキーパーに正しい評価を促す、製品開発に伴うリスクを低減するといった、複数の効果を持つものなのです。是非他の潜在ニーズを探る活動と併用してください。

(浪江一公)