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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第63回: 「情報の収集のための積極的情報発信」(その1)

(2013年10月15日)

 

セミナー情報

 

前回は市場の先を読む「時間軸」での5つ目の視点、「シナリオプラニング」ついて議論しました。今回および次回では6つ目の視点「情報の収集のための積極的情報発信」を議論します。

●なぜ情報収集のための情報発信なのか?

なぜ情報収集のために情報発信なのか、疑問に思われるかもしれません。

皆さんの会社でも、自社の活動のことを聞いて、問い合わせをしてくる顧客があるのではないかと思います。自社のメディアでの取り扱いや口コミでの情報などに基づいて、問い合わせをしてくるわけです。逆に、自社のことを全く知らない顧客から問い合わせが来ることはないでしょう。

したがって、もし顧客についての情報収集をしたいのであれば、積極的に情報発信を行えば、より多くの顧客が問い合わせをしてくる可能性は大きくなります。

また、この方法では基本的にはこちらから時間とコストを掛けて、一つ一つの情報ソースから情報収集をするという活動は必要ありません。一度情報を発信すれば(継続的な情報の発信のための活動はそれなりの工数を掛けて行うことが当然必要ですが)、巧くこの情報発信(アウトプット)のと情報収集(インプット)の仕組を設計し、関心がもたれるコンテンツを提供すれば、世界中から現在では電子メールで問合わせが持ち込まれるため、大変効果的です。つまり、りんごを収穫するのに、一つ一つりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の幹を揺らしてりんごを木から落とし、地面に落ちたりんごを集めるという効率的な情報の収集法です。

●集まる情報の種類

顧客からの問い合わせの情報は様々でしょう。技術について言えば、単なる自社の研究開発活動や技術の内容についての質問から、こんな問題の解決に貴社の技術は使えないかや、さらに踏み込んでの共同研究の打診まで多様な問い合わせが来ることが期待されます。

ここで注意が必要なのが、単に先方の質問や依頼に応えるだけでなく、どのような理由でそのような質問や依頼をしているのか?まで聞きましょう。この点は大変重要です。基本的に顧客の質問に応えるという活動だけを取り上げれば、自社には情報面でのメリットはありません。むしろその質問や依頼の背景を知ることに大きな価値があります。

情報発信による情報収集が良いのは、基本的に「先方の都合で」問い合わせや依頼が来る形をとり、こちらからのお願いではないので、こちらからいろいろと質問してもあまり問題にはなりません。また先方も差し支えの無い範囲では教えてくれるものです。

通常、情報収集というと、「こちらの都合で」先方から情報を収集するわけで、なかなかその立場上突っ込んだ質問をするのははばかられる場面は多いものです。その点、先方からの問い合わせは、先方の状況を細かく聞くことのできるまたとないチャンスになります。

●集まる情報の数の重要性

もちろん個々の情報の内容は重要ですが、問い合わせが多ければ、個別の顧客だけではなく市場全体がどのようなニーズを持っているのか、その背景にどのような大きな動きがあるのか等、俯瞰的な視点から市場を捉えるための情報を得ることができます。

従って、で問い合わせをいかに促進するかという視点からコンテンツを作る必要があります(問い合わせ窓口をPRする等)。また、情報発信の対象地域は出来るだけ広くすべきですので、外国語での情報の発信は積極的に進めましょう。またリバースイノベーションのような可能性もあり、対象地域は先進国に限らず、途上国も念頭において進める必要があります。

●どんな情報を発信するか

市場情報を収集するという観点からは、発信する情報は大きくは2つあります。

○自社の事業戦略

顧客にとっては、自社の事業戦略、特にどのような領域にどのような製品を展開することをねらっているかが重要です。もし、自社が考えている分野が顧客が求めている製品や技術分野と合致していれば、顧客が関心を持つ可能性は高くなります。またサプライヤーが様々な提案をしてくる可能性があります。そのようなサプライヤーからも自社の市場に関する情報や、サプライヤーの長期的に計画している製品や技術に関わる情報を得ることができるかもしれません。

しかし、事業戦略を開示したら競合企業の知るところとなり、競合企業の反応を引き起こしてしまうという懸念はもちろんもっともです。しかし、上場している企業はアニュアルレポートやアナリスト説明会の資料で、このようなことは企業により程度の差はあれ既に公開しています。

必要に応じて具体的な部分を補うという形で、また当然公開してはならない情報もありますから、その点は適宜取捨選択し、明確に情報開示の目的、対象分野を決定した上であれば、事業戦略や技術戦略を開示することはさほど大きな問題にはならないのではないかと思います。

○自社のコア技術や活動対象技術領域

自社が拠り所とし、自社の強みといえるコア技術や現状の技術戦略の対象分野はおおいに紹介する価値があります。企業によっては、概略ではありますが、東レなど長期にわたる自社の技術のロードマップを開示している企業もあります。これら情報から、技術について、その技術はこんな用途に使えないかといった問い合わせや、さらには共同研究や開発の依頼も来る可能性があります。また仮に共同研究や共同開発に至らなくても、これらの情報は今後のテーマを考える上で貴重なインプットになります。

次回(第64回)も引き続き、「情報の収集のための積極的情報発信」を議論します。

(浪江一公)