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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第60回: 「顧客の先進部門とのコンタクト」

(2013年9月24日)

 

セミナー情報

 

前回は市場の先を読む「時間軸」での2つ目の視点、「顧客の本質的ニーズをつかむ」ついて議論しました。今回は「顧客の先進部門とのコンタクト」を議論します。

●ライトハウスカスタマーとしての研究開発部門

第58回ではライトハウスカスタマーを活用するという話をしました。ライトハウスカスタマー(灯台顧客)とは、市場の先にまで光を当ててくれる先進的な顧客であるという説明をしましたが、一社の顧客でも、その中にライトハウスカスタマーに相当する将来のことを主に考える先進的な部門や人たちがいます。研究開発部門の人たちです。

研究開発部門の人たちは、顧客の製品の次世代、次々世代、更にはその先のことを考え、研究している訳で、まさに本論の議論の目的である市場の先を読むための情報の重要な供給源になります。

●顧客の研究開発部門は情報を開示してくれるのか?

ここで問題になるのが、研究開発部門の人たちが自社の将来の製品化、事業化のための情報を開示してくれるのかという問題があります。それについては、基本的にはノーでしょう。その理由は説明するまでもありません。しかし、そこであきらめないでください。顧客の研究開発部門でも、自社と同じように将来のテーマの探索や、既に取り組んでいるテーマにおいては様々な課題があるわけで、その解決策を懸命に検討しているはずです。彼らにとって、サプライヤーから有用なアイデアや情報を得ることができれば、またサプライヤーとの議論の中から新な気付きが得られれば、彼らにとってのメリットには極めて大きなものがあります。

企業の中には、自社の研究開発活動をかなり長期レンジで公開している企業もあります。このような企業の情報開示の目的は、いくつかありますが、その中の一つが共同開発先の探索やアイデアの提供を受けることがあります。いま世界中の企業では、研究開発の分野でオープンイノベーションによる活動を積極的に進めていますが、まさにオープンイノベーションのための情報開示でもあるのです。顧客の研究開発部門は外部からの情報を欲しているのです。

●顧客の研究開発部への効果的なアプローチ法:ギブ、ギブ、アンド、テイク

したがって、顧客の研究開発部門にコンタクトをし面会の機会を得るには、自社との面会が顧客にメリットがありそうだ思ってもらわなければなりません。なにしろ、自社にとって極めて重要な将来計画や活動に関わる情報を仮に暗示的であっても何らかの形で面会先が知ることになります。したがって、そのようなリスクを補ってあまりがなければなりません。そこでは、2つほど重要な事前準備が必要になります。

一つはその分野で、自社が重要な知見、アイデア、能力を持っていることを事前に示さなければなりません。つまり、その分野で自社も自社の研究開発の活動や内容について情報開示を定常的に行なっておくということです。これは、学会での発表、展示会、そして自社のウェブサイト上での情報開示などがあります。これは、自社のあるテーマについての顧客の研究開発部門とのインターアクションが必要となった時点では遅すぎますので、そのような活動を「定常的」に行っておくことが重要になります。

もう一つが、具体的なテーマに関し、顧客へのなんらかの提案を持っていくことです。顧客のところへ行って「何か困っていることはありませんか?」と聞いても、「一体なにをしに来たのだ?忙しいから帰ってくれ」と言われてしまうだけです。このような姿勢での面会は、顧客には全くメリットがありません。加えて、顧客と面会できる機会はそう沢山あるわけではありません。また、顧客が面談に費やしてくれる時間も限られています。その貴重なチャンスを有効に活用するためにも、なんらかの提案を行ない、面会相手に関心を持ってもらい深い議論をすることが重要です。またその提案を効果的に示す資料やモノを持っていくことです。百聞は一見にしかずで、短時間で自社のアイデアを伝える工夫が必要です。この提案は、全くの仮説でかまいません。顧客の関心に多少とも触れれば、先方は多くの情報を提供してくれるでしょうし、次回の面会も機会も与えてくれます。

つまり、情報面において2つの『ギブ』を行なって、やっと顧客の研究開発担当者と面会し情報収集ができ『テイク』ができるという、面会先のメリット重視で長期的な視点で活動することが大切になります。

●実際の事例IBMのワトソン研究所に20%ルールがあります。3Mの15%ルール(自分の時間の15%は自由に自分の好きなテーマに時間を使って良いというもの)は有名ですが、IBMのルールは自分の時間の20%を顧客との面会に費やさなければならないというものです。研究者ですから、直ぐに製品化や事業化の対象となるものよりも、もうすこし時間軸の長いものが対象となりますので、面会の相手は顧客の研究開発部門であることが多いでしょう。

その他、日本ではNECの中央研究所でも、研究者による顧客訪問を行なっています。また、私のよく知るエレクトロニクスメーカーでも、積極的に顧客の研究開発部門とコンタクトをし、研究開発部門との共同開発などから顧客の長期的な動向を把握するという活動をしている企業があります。

●研究者自身が情報収集活動を行なう重要性

上のIBMやNECの例にもあるように、ここでは誰が顧客訪問をするのかが重要になります。顧客訪問というと直ぐに「営業」と短絡的に決まる企業が驚くほど多いのですが、営業が顧客の研究開発部門に行っても、仮にかなりの技術的な知識を持っている営業担当であっても議論には花は咲かないでしょう。まずは顧客は営業が来れば、直接商売の話と思い警戒もします。またなによりも上で言ったこちらからの『ギブ』ができません。また、営業担当者はいつ売上に結び付くかどうかわからないような仕事に積極的になる訳がありません。ここは研究者や技術者の出番です。営業を間に介在させず、顧客の研究開発部門と直接コンタクトしなければなりません。

(浪江一公)