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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第54回: 「テーマ創出の『大きな』枠組みの必要性」

(2013年8月12日)

 

セミナー情報

 

ここまでは、主に既に創出されたテーマをどう適正にマネジメントし、事業での成功に結びつけるかを議論してきました。今回からしばらく、テーマ創出ついて議論したいと思います。

●テーマ創出の重要性

ステージゲート法は、これまで何度も議論をしてきたように、革新的な成果を生み出すことを目的としており、その運営はテーマの多産多死を前提としています。従って、アイデアが継続的に多数創出されなければなりません。

しかし、そもそもステージゲート法の議論以前に、革新的テーマの創出は企業においては長期的に死命を制す重要な活動です。なぜなら、将来の収益の源泉となるものですから。もちろん、既存製品の修正や既存製品の次期モデルなど、既存の延長の活動で収益を生むことはできます。しかし、新しい製品分野や新しい事業を継続的に創出しなければ、中長期的な企業の存続はあり得ません。また、いずれの産業においても、製品のライフサイクルが益々早まる中、テーマ創出の重要性は拡大しています。

●現状でのテーマ創出上の問題点

ほとんどの企業において、このような研究開発テーマの創出の重要性は認識されているはずです。しかし一方で、ほとんどの企業において、そのテーマの創出活動については、非常に少ない経営資源しか投入されていないのもまた事実です。これは日本企業のデータではありませんが、アイデア創出から市場投入までの全体の費用の中で、商品企画に投入される経営資源は全体の7%というデータがあります。この7%の一部がテーマ創出に充てられますので、その重要性に関わらず、テーマ創出には企業の投資のほんの一部しか投入されていないことになります。

また多くの企業で、既存の顧客からの直接的な要請に基づきテーマが創出されることが多いものです(B to B製品の場合)。もちろんこの方法が悪いということではありません。将来その製品を買ってくれる「目の前の」顧客からの要請に対応するほど、確実なことはありません。しかし、往々にして、その開発した製品はその顧客以外には多くは売れません。また、顧客は二者購買をするのが普通ですので、利益率は低くなるのが普通です。さらに、既存顧客以外の顧客(「非顧客」という)の世界には満たされない数々のニーズが存在しているはずで、これらニーズに対応していないために大きな機会損失が生まれています。

加えて、テーマ創出においては、個々の研究者・技術者の能力や感性に頼った活動しか行われていない例も多いものです。また、一般的に、研究者や技術者は、テーマ創出において極めて重要なマーケティングの知識を欠いています。まだ開発については、常に顧客と接しているため、既存の顧客だけを対象とした視野の狭さという問題はあるものの、市場についての感度はもっているのが普通ですが、研究に関して言うと、通常研究者はマーケティングとは対極のマインドセットを持っているのが普通であり、また経営においてもそれを当然の前提としてきました。研究テーマ創出の重要性を認識しながらも、そのような研究者個人の「感性」に頼るだけで研究テーマの創出を行おうとするのは、大きな矛盾です。

●革新的テーマ創出の難しさ

もちろん、それぞれの企業は何とか良いテーマを創出しようと工夫はしています。例えば、研究者に顧客を訪問させたり、アイデア創出のセッションを行ったり、事業部門と定期的なミーティングを持つ、またテーマの社内公募などです。

しかし、革新的テーマの創出は現実には難しいものです。なぜなら、何か一つの活動、例えば市場の分析を行うと、その結果として必ず出てくるといった活動ではないからです。結果が出てくるかどうかわからない活動への投資を、どう正当化するか?多くの企業のテーマ創出のための活動が、その成果がでないゆえに、積極的な活動のレベルの維持が難しく、また実行者のモラールも下がってしまうのです。この点がテーマ創出のマネジメントが難しい理由です。

●革新的テーマは多様な活動の結果

これらの断片的な活動だけでは、継続的にテーマ創出するのは難しいものです。革新的なテーマは、長い期間にわたる様々な忍耐づよい活動の蓄積の結果生まれると言えると思います。これまでの世界中での革新的なテーマの創出は、そのような状況から生まれてきました。これら一見偶然のセレンディピティと思えるようなことも、よりグローバルで産業横断的なマクロ的な視点から見ると、それまでの様々な分野の人たちの活動の蓄積に基づき、ある一定の確率で、その確率は低いものの「必然的に」起こっていると考えることができます。この考え方を企業における革新的テーマの創出に当てはめることができます。

●多様な活動を効率的に進める『大きな』枠組みの必要性

つまり、偶然に起こる(ミニ)セレンディピティを効率的に創出するための『大きな』長期的な枠組みを社内に作ることが、継続的に革新的テーマを生み出すために重要であると考えることができます。それは革新的なテーマを創出するための多様な活動を、それぞれ相乗効果を生み出しながら、またそれぞれの活動から生まれる経験を蓄積・進化させながら進める枠組みです。それでは具体的にはその『大きな』枠組みとはどのようなものなのでしょうか?

この議論は次回で行いたいと思います。