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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第50回: 「ステージゲートの初期での利益の考え方」

(2013年7月16日)

 

セミナー情報

 

ゲートゲートの重要な評価項目に利益があります。そもそもいずれのテーマも最終的には利益に結びつかなければならず、最終指標として利益(およびNPV等の他の類似指標)の議論は極めて重要です。しかし、ステージゲートの初期のゲートで利益額や利益率を求めても、それらは売値および様々なコストの積上げから最終的に算定されるものなので、初期には不確実性が高く想定が困難です。このステージゲートの初期においては、利益はどう考えればよいのでしょうか?

●ゲート1で考える利益の代理指標としての「顧客価値」、「競合」および「自社の強み」

アイデア創出ステージ直後のゲート(ゲート1)では、そのアイデアが面白いテーマかなどを主要な評価ポイントとし、利益の評価はしない企業が多いのではないかと思います。なぜなら、この段階で利益を求めてもそもそもまだ粗いアイデアの段階で、利益額や率を算定しても意味がないからです。

しかしこの段階でも、冒頭に述べた理由で利益からの評価は重要です。ではどうしたら良いのでしょうか?

「面白いテーマか」をもう少し因数分解すると、「顧客価値」の大きさ、「競合」企業の展開の有無、「自社の強み」の発揮等を考えることができます。

その製品が実現する「顧客価値」が大きければ、売値は高くなります。なぜなら、顧客は享受する顧客価値に対して対価を支払う準備があるからです。しかし、一度「競合」企業が参入すれば、顧客の享受する価値に加え、競合環境によって売価が決まってしまいます。従って、売価は顧客価値の大きさおよび競争環境によって決まります。

利益は、売価マイナスコストです。コストの部分はどう考えれば良いでしょうか?このコストの部分の代理指標として、自社の強みを位置づけて考えることができます。自社の既存の強みを発揮できれば、その製品や事業展開を低コストで実現できます。例えば、既存の強い販売チャネルを利用できれば、今から追加の販売チャネル強化のコストは不要かもしれません。技術に強ければ、同様に技術開発にこれから投入するコストは少なくて済むでしょう。

従って、ステージ1では、利益額や率そのものの議論は不要ですが、上のような評価項目を利益の代理評価項目と考えることができます。

●ゲート2で考える3つの要素
初期調査のステージの直後のゲート2になると、ある程度の定量的な数値、すなわち、売価、販売数量、コスト(設備、原材料等)などの金額を算定する必要があります。但し、この段階でも不確実性が高いので(革新的なテーマの場合)、算定結果は今後相当変わる可能性があるという但し書き付です。従って、この数値はあくまで評価の参考という程度にとどめておくことが良いと思います。

むしろ上で述べた「顧客価値」、「競合」および「自社の強み」に加えて、下に示す定性的な分析を行いこれらの結果をより重視する方が良いと思います(但し、ゲート2では利益額、利益率等の定量値は算定してください。算定する活動自体に価値があります。)

○ファイブフォース分析を利用する。

戦略論の基本コンセプトに、マイケル・ポーターのファイブフォース分析があります。これは、業界の利益率は、業界内の競争、顧客との交渉力、売り手との交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威の5つの要因・力(フォース)により、規定されるというものです。

従って、ステージ1(初期調査)の段階では、これらの5つの要因をそれぞれ評価し、その総合評価として業界の利益率の『傾向』を想定することをお勧めします。ここでは、評価は当然「利益率□%」という形ではなく、「利益率は高」とった定性的な表現になります。この段階では依然不確実性は高いので「利益率□%」という定量的な議論をしてもあまり意味はありませんので、定性的な評価で全くかまいません。

○タイム・ウィンドウ

それから、利益率に大きな影響を与える要素に、タイム・ウィンドウがあります(もちろん利益率だけでなく、もう1つの関心事である売上も大きく変わります)。製品や事業展開できる期間が長ければ、それだけ、固定費比率が低くなります。従って、市場の成長のドライバーの持続期間の想定を含む市場の成熟度の時間的推移の想定が大変重要になります。

 

●研究テーマであっても利益は初期から代理指標を使って考える

よく利益はいつから考え始めたらよいのかという質問があげられますが、答えは以上のように初期からということになります。なぜなら利益はほとんど全てのテーマの最終目標であるからです。企業の活動である以上、研究テーマも同様です。研究テーマであっても、「顧客価値」、「競合」および「自社の強み」の想定は初期においても可能です。もちろん、初期においては、定量的な算定は不可能であるため、上のような定性的な評価をお勧めします。また中期、後期においても、利益額や利益率はいつまでたっても変動要素が残るものであり、併せて定性的な分析および評価も行うことをお勧めします(ローリングにより)。定性的な評価では利益率は低いのに、定量的な評価では利益率が高いということは一般的には有りえませんので、両者を比較することで、より信頼できる評価をすることができるようになります。