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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第47回:ゲートの運営(その40):ゲートミーティングの運営(10)
「ゲートミーティングは真剣勝負の場」

(2013年6月24日)

 

セミナー情報

 

■研究開発テーマ・マネジメント・プロセスは企業の生命線
研究開発テーママネジメントは、企業の存続にとっての生命線です。なぜなら、自社の新しい製品は、研究開発テーマから生まれるのですから。企業の収益の源泉です。このプロセスの運営が巧くできない企業は、凡庸な製品しか生み出すことができず、市場では競合に負けてしまいます。しかし、この当たり前のことが、多くの企業において、少なくともゲートミーティングの場では明確に理解されていないように思えます。その証拠に、多くの企業においてゲートが巧く機能していないのです。

■ゲートミーティングは真剣勝負の場
「このテーマは儲かるのか?」
これはある企業のゲートミーティングで、ゲートキーパーである取締役が、プロジェクトチームに投げかけた質問です。皆さんはこの質問を聞いてどのように思われるでしょうか?私はこの取締役のこのテーマに対する当事者意識がいささか薄いように感じられます。そのテーマが儲かるかどうかを判断するのが、ゲートキーパーのミッションですし、株主に対する取締役の責任でもあるからです。プロジェクトチームが儲かると答えたら、そのテーマを承認するのでしょうか?

既存の事業分野や技術分野でテーマの良し悪しを判断することは、それほど難しくはありません。通常ゲートキーパーはその分野で長い経験を持っているからです。しかし、新しい分野で判断することは難しいものです。ゲートキーパーは、その分野での経験を持っていないからです。しかし、それでもゲートキーパーはテーマを承認するか中止をするかを判断しなければなりません。加えて、そのテーマに関しては、圧倒的にプロジェクトチーム側が多くの情報を持っています。ゲートキーパーにとっては、事前に配布される成果物と当日のプロジェクトチームによるプレゼンテーションの場で提供される情報しか、そのテーマに関する情報はありません。

この場合、ゲートキーパーは何を拠り所に判断をしたら良いのでしょうか?それは、自分自身のこれまでの事業や企業での経験、そこで培われた能力、それから直接経験をしていなくても長い人生の中で学び、また見聞きした知識、そういったものを総動員して、言うならば全知全能を掛けて、議論し、決定することだと思います。

その結果、ゲートミーティングは、なんとしてもそのテーマの承認を勝ち取りたいプロジェクトメンバーと、このプロセスを通じて(本テーマを中止して他のより有望なテーマに経営資源を振り向けることも含め)何とか企業の生命線である収益実現の機会に結び付けたいゲートキーパーとの間での、真剣を持ってしての勝負の場となります。

■ステージゲート・プロセスの役割
従って、ゲートミーティングは、プロジェクトチームにより予め点数付け結果を機械的に承認する場であってはなりません。また、プロジェクトチームメンバーの顔ぶれや熱意(第30回参照)を見て判断してはなりません。そもそも、プロジェクトチームは、ゲートキーパーよりずっと多くの情報を保有していますが、その判断能力はゲートキーパーより劣るのが一般的です。また当然プロジェクトチームの判断については、必ず大きなバイアスが働きます。このような問題に対処するために、ゲートキーパーが存在するのです。従って、ゲートキーパーは、ゼロベースで冷徹にそのテーマを判断しなければなりません。

一方で、通常ゲートキーパーはシニアな人材であり、また複数のゲートキーパーが参加しますので(特に新事業、新技術分野の場合)、通常一つのテーマにゲートキーパーが割くことができる時間は限定されてきます。従って、限られた時間の中で、効率的に真剣勝負の議論をする必要があります。その為に、効率的なフレームワークが必要であり、それがステージゲート法の大きな役割であるのです。

■真剣勝負を効率的・効果的にできるような仕組み
それではそのような真剣勝負の議論を効率的に議論する仕組みとはどのようなものでしょうか?

①客観的にテーマを俯瞰的に見る
テーマを俯瞰的に見ることのできる評価項目を用意しましょう。そして、上で述べたように、それもゼロベースで客観的に見ましょう。そのために、事前の点数付けではなく、ゲートミーティングの場でゲートキーパーが各自の認識に基づき、投票するのが良いと思います。そして、各ゲートキーパーの投票で大きな差がついた評価項目について重点的に議論をしましょう。

②全体感に基づく大きな課題を抽出・認識する
また、投票による点数が全体として低い評価項目について、なぜその評価項目の点数が低いのかについて議論を行い、ゲートキーパーの間で共有化をしましょう。

③課題解決の大きな方向を議論する
その点数が低い評価項目について、評価を上げる方策はないのか、それは何かについて議論をしましょう。

④全体の魅力度を再評価する
以上の議論に基づき、このテーマの魅力度を再評価します(投票点の修正により)。

⑤最終的な意思決定を行なう
以上に基づき、最終的な意志決定を行います。意志決定が一人が行うのか、合議で決めるのかについては、第41回を参考にしてください。

■ゲートミーティングはゲートキーパー・プロジェクトチーム両者にとっての学びの場
ゲートミーティングの一義的な目的は、もちろんテーマを評価し、次のステージに進めるのかどうかの決定をすることですが、このゲートミーティングの場での議論は、ゲートキーパーそしてその議論を聞いているプロジェクトメンバーにとって、かっこうの学びの場です。これほど真剣に考えるケーススタディはありません。

最初は、ゲートミーティングは巧く運営することは難しいかもしれません。なぜなら、ゲートキーパーがこのような議論をする視点や経験を持ち合わせていないことも多いからです。しかし、このようなゲートミーティングの運営を続けることで、その学びから事業の視点を持って議論をすることができるようになります。