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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第31回:ゲートの運営(その24):事業評価(19)
「日本企業では不人気なディスカウント・キャッシュフロー法の価値」

(2013年3月4日)

 

セミナー情報

 

 今回からは、ゲートでの財務評価法として欧米で広く使われているディスカウント・キャッシュフロー法について紹介して行きます。

■日本では人気のないディスカウント・キャッシュフロー法

 欧米では、研究開発テーマを含め、プロジェクトの評価に利用されている指標に、ディスカウント・キャッシュ(DCF Discount Cash Flow)法があります。DCF法は、現金の出入りが伴うプロジェクトに広く利用されています。プロジェクト期間で毎年の現金の出入(キャッシュフロー)を算定し、その現金を現在の価値に算定しなおし、それら年毎の現在での価値を合計し、そのプロジェクトの現時点での評価を絶対金額もしくはROIの点から定量化するものです。

 しかし、日本企業ではあまり人気がありません。理由は、算定には前提となる多くの数値を設定するのに手間が掛かり、加えてその割には、前提数値をどう置くかにより、結果が大きく変わるという点があり、またそもそもあまり定量的な評価を好まない日本の管理職・経営陣の考え方にあっていないからではないかと思います。

 しかし、前提となる数値を手間を掛けても設定するという作業は、ステージゲート法の重要な特徴の一つである「フロントローディング」そのものであり、その点でDCF法はステージゲート法と相性が良く、また、それゆえ有効な手法ということが言えます。

■DCF法の特徴その1:現金の出入(キャッシュフロー)に基づく

 DCF法は、難しい手法ではありません。上でも述べましたが、プロジェクトの期間にわたり、現金の出入を算定し、それに基づき、そのプロジェクトの現在の価値を、金額やROIで示すものです。

 一般的には、毎年の収支は会計上の利益で表されますが、DCFでは会計上の利益ではなく、現金の出入、すなわちキャッシュフローのバランスで示されます。利益とキャッシュフローとでは何がちがうかと言うと、例えば、利益は現金が支払われなくても、支払われることを前提に利益を計算しますが(例えば利益の前提の一つの売上は、売掛金という形で現金が手元に入ってこなくても、売上として計上されます)、キャッシュフローは、手元に入ってきた現金、実際に支払った現金を言います。

■DCF法の特徴その2:現金には時間価値がある

 上で、DCF法は、難しい手法ではありませんと述べましたが、DCF法には、考慮しなければならない重要な点が一つあります。それは現金の時間価値です。1年後の100万円は、現在の価値としては100万円の価値はありません。例えば、96万円の価値しかありません。なぜなら、1年後に本当に100万円入ってくるかどうかにはリスクがあるからです。また逆に今手元に96万円あれば、それを銀行に預けることで、例えば4万円の利子が付き、1年後には100万円になります。

 この利子は、一見小さく見えますが、長期になればなるほど、馬鹿にならない金額になります。上の1年後の100万円が現在価値の96万円になるとすると、10年後の100万円は、100万円×(96/100)^10=66.5という計算により、66.5万円の価値しかありません。33.5%も減ってしまいます。この場合の1年後の100万円を現在の96万円に割り戻す数値を割引率といいますが(この場合、100/96-1=4.17%が割引率)、それが10%になると、10年後の100万円は現時点で換算すると38.6万円(=100×(1/(1+10%)^10)の価値しかありません。ちなみに、この将来のキャッシュの金額を現在の価値におきなおした金額を「現在価値」と言います。

■DCF法で算定された結果は正味現在価値(NPV)もしくは内部収益率(IRR)で表される

 DCF法に基づき計算されたそのプロジェクトの定量的価値は、正味現在価値(NPV Net Present Value)もしくは内部収益率(IRR Internal Rate of Return)で表されます。

 正味現在価値は、プロジェクト全体にわたるキャッシュフローを上の割引率を使って現在価値を計算したものを合計することで得られます。正味現在価値が『正』であれば、投資するキャッシュより、その投資から得られるキャッシュが多いということを意味しますので、そのプロジェクトを手掛ける価値があるということになります。『負』であるとすると、投資するキャッシュより得る金額が少ないことを意味します。

内部収益率は、正味現在価値で利用した全く同じ毎年のキャッシュフローを使って、正味現在価値がゼロになる場合の割引率を、社内でプロジェクトの最低の利回りとして設定した率(ハードルレートという。正味現在価値では、このハードルレートを割引率として使い、正味現在価値を計算する)と比較し、前者が後者より大きければ、そのプロジェクトを手掛ける価値があるということになります。

 正味現在価値は「金額」で、内部収益率は「率(%)」で表されます。両者の計算は、全く同じ数値(毎年のキャッシュフロー、割引率・ハードルレート)を使いますので、プロジェクトの評価結果は当然同じになります。

それでは次回は、日本企業ではあまり人気がないのに、なぜDCF法は有効なのかを議論します。