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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第28回:ゲートの運営(その21):事業評価(16)
「リスクは悪か?」

(2013年2月12日)

 

セミナー情報

 

 前回はリスクの議論をしましたが、今回も引き続きこのテーマについて議論をしたいと思います。

■リスクは悪か?
 ステージゲート法の大きな目的は、革新的な製品を創出することです。しかし、革新的ということは、これまで誰も手掛けていない可能性が高く、リスクも高くなります。革新的でありながら、リスクも低いというテーマは多くはないでしょう。つまりリスクの高いテーマを落とすとすると、平凡なテーマばかりが残るということになってしまします。

■リスクに前向きに取り組むメリット
 開発テーマへの取組において、リスクに前向きに取り組んではどうでしょうか?開発テーマに前向きに取り組むことで以下のようなメリットがあります。

○より多くのテーマに取り組むことができ、革新的な製品が創出される可能性が高まる

 これまでリスクが高いために中止にしていたテーマにも取り組むことができるようになるために、より多くのテーマを対象とすることができるようになります。その結果、革新的な製品が生まれる可能性の向上というメリットを享受することができます。

○プロジェクトチームメンバーがより積極的にリスクを開示する

 プロジェクトチーム側が積極的に、リスクを開示するようになることです。リスクが高いと評価が下がるのでは、プロジェクトチーム側はリスクを開示しないというモチベーションが働きます。新規事業の分野のような、ゲートキーパー側にリスクを評価する知見がない場合には、深刻な問題になる可能性があります。しかし、リスクが高くても良いということであれば、そのようなことは起こりません。加えて、プロジェクトチームは、リスクの対応策を一所懸命考えることに時間を費やすようになります。

○リスク対応能力が高まり他社に対する有力な差別化能力になる
 高いリスクのテーマに取り組み、そこから様々な経験をすることで、益々リスクの対応力が向上します。その結果、リスク対応能力が他社に対する有力な自社の差別化能力になります。

 

■ゲートでのリスクの取扱い:リスクそのものよりも、リスクへの対応策の具備の度合いを評価する

 もちろん、リスクが自社の能力からは管理困難なレベルになる場合もあります。例えば、中小企業が、将来大きく成長する製品において大企業と競争するということでは、投資能力を持つ大企業に勝つことは難しいでしょう。克服困難なリスクが伴うテーマは、「絶対評価」により「克服できないリスクはないか?」という問いかけを行い、Yesであれば中止するのが適当でしょう。

 一方、克服が可能と思われるリスクについては、以下の2点から評価をします。
  ○リスクは明確になっているか?
  ○リスクへの適当な対応策が具備しているか?

ここではより重要なのが、リスクへの対応策がきちんと考えられているかです。リスクそのものよりも、リスクへの対応策の具備の度合いを評価します。

■リスク対応能力を高めるためには
 しかし、当然のこと、リスクに積極的に取り組むには、リスクへの対応能力を備えていなければなりません。自社のリスク対応能力を高めるには、どのような方法があるのでしょうか?

○英知を集める
 テーマの取組において利用されていない社内の資産が、多様な機能部門にまたがる様々な知見や経験です。不確実性が高い初期の段階こそ、これらの多様な社内の知見や経験が必要とされます。プロジェクトチームおよびゲートキーパーチームの編成に関し、社内の英知を集めるようにしましょう。

○フロントローディングによりできるだけ早期にリスクを想定する
 フロントローディングをきっちり行なうことで、通常より早い段階でリスクを察知し、早期に手を打つことができます。

○主要なステークホルダーとの対話
 自社の事業に影響を与える可能性が高い主要なステークホルダーとの積極的な対話により、リスクに対する感度を高めることが有効です。

○過去の失敗を共有する
 多くの企業で行われていないのが、過去の失敗の共有です。実は過去の失敗からリスク回避について多くを学ぶことができます。ステージゲートプロセスの導入を機に、失敗のデータベースを構築し、失敗の共有化を長期的な視点で進めてください。