Top
> メルマガ:日本の製造業復活の処方箋『ステージゲート法』

 

日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第12回:ゲートの運営(その5):準備評価(3)

「DR:性善説 vs. ゲートミーティング:性悪説」

(2012年10月15日)

 

セミナー情報

 

前回の議論では、

視点1:マーケティングの3C
視点2:技術

の2つの視点があることを説明し、そして視点1について議論しました。

今回は視点2について議論したいと思います。

■視点2:技術

この視点2について「準備評価」で問う質問は、

○製品の実現に向け必要な技術は明らかにされているか(特許戦略を含め)?
○それら技術目標達成に向けての課題・リスクが明確にされているか?
○課題・リスクの対処法を含め技術目標達成に向けての方策(外部調達含め)、スケジュール、必要経営資源、体制は適正にしかるべき方法で策定・設定されているか?

になります。ここでは「準備評価」ですので、あくまで、今回の提出の成果物の内容がきちんと策定されたか(How)を評価します。実際の内容(What)についての評価は次の「事業評価」で行います。

■DRの活用

ただし、この項目の評価をゲートミーティングできちんと評価しようとすると、相当の時間を掛けて議論をする必要があります。またその分野の専門家の出席も必要となります。更に開発前ゲートのゲートミーティングにはかなりのシニアが参加しますので、このような内容の議論を長々とすることは適切ではありません。

従って、その技術分野の専門家が参加する他の場で技術(とその周辺に)に焦点を絞り、議論を行い、そこで「技術面」のお墨付きをもらった上でゲートミーティングを行うのが良いと思います。

「他の場」としては、DRを活用するのが良いでしょう。DRにはその技術に関連する専門家が出席しますので、適当です。

■屋上屋を課すことにならないか?:DRとゲートミーティングの本質的相異

ここでは、なぜDRに加えゲートミーティングを開催しなければならないのか?仕事や管理が増えるだけではないか?という懸念が出てきます。そして、DRに必要な変更を行い、ゲートミーティングとして位置づければ良いのではないか?という考え方があります。実際DRの評価項目の中には、事業の評価項目も含むのが一般的ですので。

しかし、上で説明したようにシニアのマネジメントが参加する会議で延々と技術の議論を行うことが非効率という「効率面」の問題に加え、以下のDRとゲートミーティングの本質的な相異に起因する「効果面」での問題があります。

-DR
DRにおいては、基本的に「技術的な問題はないか?」「技術的な実現性・成功確率を高める方法はないか?」「それはどのような方法か?」の議論を行います。つまり、評価の対象となっているそのテーマは事業化が前提となっており、基本的にプロジェクトを「切る」ことは考慮の対象外です。つまり、そのテーマは「正しい」という性善説に基づく議論が行われる場です。

-ゲートミーティング
しかし、ステージゲート法では、取り巻く環境は不確実ゆえ、仮に初期のゲートで選択されても、その後「不適」とわかるようなテーマにも取り組もうとう大前提があります。つまり、全てのテーマが「正しい」ということはありえないのです。

言い換えると、ゲートミーティングでは、評価の対象となっているテーマは「不適切」である可能性がかなり高く、「切る」ことが前提なのです。つまり「性悪説」で考えなければなりません。

以上より、ゲートの大きな目的は、そもそも不適切なテーマを切ることですから、発想の起点が異なるDRと一緒にすることは、思考プロセスに混乱をもたらします。技術面での成功確率を高める議論をした同じ人間が、その後続けてそのプロジェクトを中止するかどうかの決定をするのでは、その判断に先の議論をしたという記憶・経験が相当の心理的な影響を与えることは想像に難くありません。そのためにも、DRとゲートミーティングは別々に開催する必要があります。

■「視点2:技術」の「準備評価」での活動
それではゲートにおいて技術の準備評価で何をするかですが、ゲートで実際に議論する必要性はないでしょう。「準備評価の内容については、この3点(上であげた3点)についてDRの場で適正に議論されていますね」、とプロジェクトチームに確認するだけで良いと思います。ただし、プロジェクトチームの提出成果物の中には、きちんとDRで議論した証として、DRでの議事録を添付することは必要でしょう。加えて、前回議論した成果物へのプロジェクトメンバーの署名は必要です。