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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第7回:ステージゲート法とは(その5)

今回「ステージゲート法とは」の最終回としてテストステージについて議論したいと思います。

■「ステージ5:テスト」とは

ステージゲート法のバイブルであるロバート・クーパー教授の「Winning at New Products」では、開発ステージで完成した試作品だけでなく、ここまでで策定したマーケティング計画や生産を含め、上市に向けての複数の機能におけるテストを行うステージと位置づけられています。

■テストを戦略的な視点で位置付ける

テストはできるだけやりたくない、できるだけ簡単に済ませたいと考えるものです。なぜなら、上市の時期は競合他社のことを考えると、できるだけ早くしたいですし、当然テストにはコストも掛かり、競合企業に自社製品の情報が漏れ、また問題は見たくないという人間の心理も存在します。また問題が発見されれば、当初想定しないその問題への対応を強いられます。

しかし、テストを違う視点から捉え、テストをしないと問題が起こるという消極的な理由だけではなく、そこに戦略的な意味を持たせることが重要です。

■イノベーティブな製品においてはこの段階でも不確実性が溢れている
ここまでの過程で、不確実性を解消する活動を積極的に進めてくるわけですが、イノベーティブな製品(顧客も含めて世で新しいコンセプトの製品)であるほど、この期に及んでも不確実性は多く存在します。従って、このテストの段階でもサプライズが発生します。なにしろイノベーティブな製品なのですから。

そうであれば、このサプライズをより前向きに捉えてはどうでしょうか?

■イノベーティブな製品の上市後のトラブルの影響は大きい
その製品がイノベーティブな製品であれば、通常その製品で終わることなく、次期、次々期でその発展製品の展開を期待し、製品ではなく事業として育てていくことになります。しかし、その最初の製品が市場で大きな問題を起こすとすると、その製品のみならず、将来の事業化の可能性を損ない、場合によっては、その事業展開を中止するということにもなりかねません。従って、それがイノベーティブな製品であればあるほど、このテスト段階で、極力最終的に上市後に起こる問題を抑えこむことは重要となります。

■顧客の反応をより早期に捉えれば打ち手のオプションが拡大する
仮にテストを行わないとすると、上市後に様々な顧客の反応があるでしょう。製品の改修や回収をしなければならないものもあれば、次期モデルに反映すべきクレームもあるでしょう。いずれにしても、テストをきちんと行うことで、その情報をより早い時期に入手できるわけですし、また打ち手のオプションもこの段階では、その製品で対応ができる等、多いのです。もちろん精緻なテストを行う程、上市の時期は遅れるかもしれません。しかし、後述するようにその期間を短縮することは可能です。

■次期、次々期製品の顧客情報を早期に入手する絶好の機会
この段階でのテストは、既に完成品に近い試作品でテストができるので、次期、次々期製品の顧客情報を入手する絶好の機会です。顧客の潜在ニーズを捉える、それもかなり確実な情報を取れるのです。イノベーティブな製品は、通常は当初は競争はありませんが、その製品が市場で成功すれば、必ず競合企業が類似の製品を展開してきます。通常は、自社製品より優れたものを出してくるでしょう。そうなると、競争になり製品の価格は下落し、利益率は降下します。

従って、自社は、できるだけ速く市場のニーズを拾って、それを反映させた次期モデルの展開が必要となります。従って、本来であれば上市後でなければ入手できない情報をテストの段階で入手できれば、数ヶ月、もしくは数年、貴重な情報入手の時期が早まるわけです。この時間は極めて貴重です。仮にその製品で上市の時期が遅れても、後に次期モデルを充実させることで、元をとるだけでなくおつりがきます。

■サプライズは、今後のテスト法の改革・改善にもつながる
テスト段階でのサプライズ情報は、単に当該製品や次期製品に反映されるたけでなく、次回のテスト法をよりサプライズを少なくする、テストの短期化、効率化を行う情報としても有用です。つまりテストはテスト法のテストの場でもあるわけです。

■サプライズを所与のものとし、それを前提とした組織体制を組むことで競合優位を構築する
通常、サプライズへの対処は文字通り想定外のもので、また他部門を含めた組織横断的な対処が必要となることが多く、心理的にも前向きかつ迅速な対処は難しいものです。しかし、サプライズが忌み嫌われるものだとすると、そのような情報は見てみぬふりをする、隠蔽するということも起こりえます。大きな問題を隠蔽すれば上市後大きな問題になりますが、それだけでなく、様々な小さな情報も、本来当該製品に反映される余地があったにもかかわらず、そのまま上市し、かならずしも大きな問題とはならなくとも、当該製品の魅力度を損なうということが起こりえます。

しかし、サプライズを企業全体で所与のものとすれば、テスト段階で浮かび上がった当該製品で対処すべき問題は、前向きにかつ迅速に対処することができます。これにより、他社が模倣困難な競合優位性を築くことができます。

■テストの戦略的な重要性を理解し、プロセス全体に組み込む
このようにテストは受身の活動ではなく、積極的な事業にとって戦略的に重要な活動です。このような理解の下、このテストの必要性・重要性を所与のものとし、ステージゲートプロセス全体に組み込んでおけば、テストの徹底による上市時期の遅れを最小化する、もしくは、結局は上市の時期を早めることができます。また、テストは極めて重要であるゆえ、日々その仕方を改善し、プロセスに反映するという継続的改善も必要となります。

次回からは、ステージゲート法の個別の課題を取り上げて、議論をしていきたいと思います。