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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第174回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(21): 形式知の問題点

(2018年1月29日)

 

セミナー情報

 

知識は、形式知と暗黙知に分けることが知られています。今回は形式知の問題点を指摘し、その問題点にいかに対処するかを議論していきます。

●形式知と暗黙知

形式知というのは、既に言葉や文章に表された明示された知識で、レポートを読んだり、人の話を聞くという活動により、知識を得るものです。従って、このメルマガの内容は、形式知です。一方の暗黙知は、逆に言葉や知識に表されていない知識です。例えば、暗黙知の例に匠の技がありますが、匠の技はマニュアルなどには落とされていませんし、通常弟子は匠から説明を受けることなく、匠の後ろ姿を見て学びます。

●形式知の問題点

この形式知と暗黙知では、形式知の方は既に明確な知識としてあらわされているので、学びという点では便利に思えるかもしれません。しかし、問題点があります。それは、そもそも基の情報を文章や言葉に表すには、そこには必ず人が介在し基の情報が解釈され、その人の知見や思考を通して形式知が形成されているということです。

その結果、以下の2点が発生します。

○その形式知が正しいとは限らない

以上の理由で、形式知の質は、すべからくその人の知見や思考に左右されるわけですので、その形式知が正しいという保証はありません。もちろんその形式知受けて、形式知の受け手はそれが正しいかを判断する訳ですが、形式知の基になる情報をほとんど持ち合わせていないということは多く、常に正しい判断をすることは困難です。

○その形式知は全てではない

もう一つの問題は、その形式知は基の情報から生み出された知識の一つにすぎず、他にも多くの解釈が存在します。例えば、このメルマガの内容、すなわち形式知は、私の過去の人生の中で獲得してきた知識と私の思考パターンに基づいていますが、このメルマガの内容は、内容が正しいとしても、「私の頭」という極めて「細い」ストローのようなフィルターを通し生み出されたもので、別の人が同じような知識を持っていたとしたら、別の形式知を生み出しそちらの方がより正しく役に立つかもしれません。

●他人の創出した形式知の追認のみでは、イノベーションは生まれない

形式知は極めて重要です。自分の脳だけの知識創出能力は極めて限られているので、人類の過去に存在した先人も含め何千億人もの他人が創出してきた形式知を学ぶことは、極めて効率的であるからです。そして、これらの人が創出してくれた形式知により、自分達の活動を多いに改善することができますし、そもそも現在私たちが享受している文明は、これら先人の形式知によるものです。

しかし、他人の作った形式知を追認し、そしてそれを既に世の中で自明となっている対象に適用するだけでは、自分達がイノベーションを起こすことはできません。なぜなら、イノベーションはこれまでになかった新しい事(本メルマガの中では顧客価値)を創出するものであるからです。

その為には、形式知の前提となる知識や経験を、自らが収集・蓄積する必要があります。この議論は次回も続けていきたいと思います。

(浪江一公)