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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第161回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(8):厳しく辛い道ばかりを選択していないか?

(2017年7月18日)

 

セミナー情報

 

前回は、「2. 既知の市場ニーズと未知の技術的解決策」と「3. 未知の市場ニーズと既存の技術的解決策」が、研究開発で主要な対象となるとの議論をしました。今回は、前者について掘り下げてみたいと思います。

●既知の市場ニーズと未知の技術的解決策;厳しく辛い道

既知の市場ニーズに対する未知の技術的解決策は、既に充足すべき市場のニーズが見えているが、そのニーズを充足する技術的な解決策がないという状況です。これは、最も一般的な研究開発テーマのパターンではないかと思います。

しかし、このパターンは、厳しく辛い道です。なぜなら、充足すべき市場ニーズが見えているのは、自社だけではなく(ここでは「既知」は世の中全体に「既知」と定義している)、競合他社にも見えているからです。したがって、充足すべき市場ニーズが大きければ大きい程、それを充足するための技術的解決策を目指して、多くの企業が研究開発競争をするからです。

例えば、電気自動車用の電池の研究開発競争を例にとります。電気自動車は今後世界の大きな潮流になることが見えています。そのため、新規参入企業を含めて、その競争は数多くの世界中の名だたる企業が、競争を展開し、その上、成功した場合の大きな果実を期待して、各社多くの経営資源をそこに投入しています。したがって、研究開発における競争は熾烈を極めます。

●その昔の米国における自動車開発競争からのアナロジー

米国における自動車産業の勃興期、1910年には、なんと米国だけで200社の自動車メーカーがありました。しかし、1930年代には、それが20社になり、1960年代には4社になってしまいました。この自動車における競争においては、業界で一位になれる確率は、0.5%しかないことになります。

研究開発テーマにおいても同じ市場ニーズを対象としていては、例えば、5社がしのぎを削っているとすると、一位になれる確率は、20%にすぎません。

●多くの企業の研究開発の問題点

もちろん、研究開発はポートフォリオで考えるべきで、既知の市場ニーズに未知の技術的解決策という分野に経営資源を投入するという活動があっても構いません。現実に既に事業を展開している訳で、そのような文脈の中では、厳しい技術開発競争を敢えて甘受して、その開発を進めなければならないという状況は、当然起こります。しかし、このような活動に経営資源の大半を投入するということであれば、問題です。冷静に考えれば、事業での成功の確率が極めて低いテーマばかりをやることになるのですから。

●遥かに楽な道:未知の市場ニーズと既知の技術的解決策

一方で、未知の市場ニーズと既知の技術的解決策は、はるかに楽な道です。なぜなら、未知の市場ニーズは競合企業には知られておらず、その市場ニーズをいち早く見つけさえすれば、既に技術的解決策は世の中にはあるのですから、さほど大きな苦労なしにその市場ニーズを充足することができます。

次回はこの議論を続けていきたいと思います。

(浪江一公)