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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第126回:個人のスパーク力をアップする方法(1):隣接可能性の活用

(2016年2月29日)

 

セミナー情報

 

ここまでは、スパークそのものではなく、スパークの原料やスパークを起こすための環境面の議論をしてきました。今回は、いかに個人のスパーク力そのものを向上させるのかについて、切り込んでいきたいと思います。

スパークの原料として、様々な情報や知識を集めた。それでは、それらを利用していかに革新的なテーマを個人の頭の中で創出するか?この問は、スパークの中でももっとも中核的な議論で、皆さんが最も知りたいものかもしれません。

●『隣接可能性』の威力:とにかくありきたりのアイデアでも良いのでアイデアを形にして出す

イノベーションを起こす重要な考え方に『隣接可能性』があります。この概念は米国の生物学・複雑系の学者であるスチュアート・カウフマンが唱えているもので、「一度一定の『実現範囲の境界』に達すると、そこで新たな世界が広がる」というものです。彼は生物学・複雑系の学者で、「生命が誕生する前の地球にあった、アンモニア、メタン、水、二酸化炭素といった簡単な分子から、一足飛びに人間や牛を化学反応で作ることはできない。その過程には、糖の分子やたんぱく質や核酸といった物質を経て、徐々に作られていくことから着想を得たものです。

この概念を革新的アイデアの創出に当てはめると、「一度、とにかく思いついたアイデアを粗くても形にしてみよう」というものです。アイデアが粗くても、そこに到達することで、そこでそれまで想像していなかった新たな視野が拓け、新しい発想が生まれ、そこから新たなアイデアの進化・磨かれていくのです。まさに英語にquick and dirty(「完璧でなくても良いので、早いとこ形にしよう」)という言葉がありますが、まさにそれです。

したがって、最初の出発点は革新的なアイデアではなくても全く構わないのです。実は、これは私が日々実践していることで、例えばこのメルマガの原稿を書くに当たっても、核になるアイデアの断片が浮かんだら、そのアイデアを、とにかく粗くても良いのでA4一ページ程度の原稿に落としてしまいます。そうすると、できたものを見て、ここが変だとか、こんなことも考えられるんじゃないか、とか新たな発想が生まれます。そのプロセスを重ねることで、良い内容に進化していきます。皆さんも『隣接可能性』を意識していなかもしれませんが、これは日々やっていることでしょう。

●ブレーンストーミングでアイデアの質より量を重視する意味:『速く』そして『目いっぱい』

ブレーンストーミングで、そのルールとして良くあげられるのが、1つ1つのアイデアの質より、アイデアの数を重視しようというものがありますが、これも『隣接可能性』の考え方によるものです。必ずしも質が高くないアイデアも、一度出してみるとそこから新たなアイデアの進化の可能性があるのです。そして量を重視しているので、アイデア進化の出発点が数多く創出されます。つまり、ブレーンストーミングは、『速く』そして『目いっぱい』アイデアを出すことで、隣接可能性のフロンティアを拡大しようとするものです。

したがって、ブレーンストーミングもアイデアの出しっぱなしではいけません。そこから更に次のアイデアに進化させたり、あらたな着想を生む活動が必要です。

●稚拙でもよいので早くプロトタイプを作る:デザイン思考の1つの考え方

近年日本企業でも注目を浴びている問題発見・解決の方法の体系に、デザイン思考があります。この考えは、従来の問題発見・解決に重視されていた精緻な分析よりも、むしろ問題の存在する現場を五感で捉え、そこから問題を発見し、解決策を考えようというアプローチですが、このデザイン思考の中に、プロトタイプの重視があります。とにかく問題の解決策を稚拙でもよいので早いとこ形にしようというものです。例えば新しい製品アイデアであれば、ボール紙やセロテープなど、どこにでもある材料でとにかく形にしてみます。これはまさに『隣接可能性』の効果を生み出すためのもので、なにか形にすれば、そこから更に新しいアイデアが着想できるのです。

デザイン思考の中には、さらにアイデアを稚拙でも良いので早く顧客等の他の関係者にぶつけて反応を得ようというステップもあり、これも『隣接可能性』の考え方によるものです。

(浪江一公)