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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第114回:「新たな製品テーマ発見のためのオープン・イノベーション」

(2015年8月31日)

 

セミナー情報

 

今回は、製品アイデア創出・実現を目的に、必ずしも技術に限定せず、製品アイデアそのものを外部から獲得するためのオープン・イノベーションについて議論したいと思います。

●オープン・イノベーションによる獲得の対象

通常オープン・イノベーション(インバウンドの場合)は、外部の技術の獲得を目的としています。しかし、オープン・イノベーションの活動を、技術の獲得に限定する必要はありません。オープン・イノベーションを、外部を活用して社内にイノベーションを起こすと定義すれば、技術以外の、製品アイデアそのものや、そのための必要技術を外部に求めるということも十分ありえます。

オープン・イノベーションの中の「イノベーション」の部分は、シュンペーターによれば、「既存の知識の新しい結合(スパーク)」と定義されていますので、結合する基の「既存の知識」は、技術に限定する必要はありません。したがって、外部を活用(すなわち「オープン」)してのオープン・イノベーションを起こすには、技術以外のアイデアや能力を含むと考えるのが良いのです。

今回の議論では、一義的に製品アイデアそのもの(場合により技術や他の能力とのセットということも当然あり得る)を外部に求めるオープン・イノベーションについて議論します。

●事例:P&Gのテクノロジー・アントレプレナー

オープン・イノベーションと言うと、コネクト&デベロップを展開するP&Gが例に出されることが多いです。P&Gでは同プログラムを、世界中の主要地域に配置したテクノロジー・アントレプレナーというスタッフによって、実行しています。彼らの目的は、現地で面白い技術を持つ企業、大学、個人を対象に技術を見つけることは当然行っていますが、同時に製品アイデアを発見することも行っています。むしろより正確に言えば、技術を探せばその技術による実現を目指している製品アイデアも当然ついてくる、もしくはそのような技術を探す全般活動の中から新しい製品アイデアを見つける機会が生まれるということがあります。したがって、P&Gは外部で探す対象を技術に限定してはいません。

●重要視点:知りえたアイデアの抽象化

その際に重要になるのが、知りえたアイデアの抽象化です。

既に技術と製品アイデアがセットになり、製品として実現している、もしくは製品アイデアと技術の完成度が高いものは、そこになんらかの自社としての価値を付加する余地は少ないものです。その製品をその技術を使って実現したとしても、せいぜい自社で設計・生産をし、販売チャネルに載せるという程度で、自社で創出する価値は小さいものです(もちろんそのような製品があっても良いのですが)。一番望まれるのは、製品のアイデアがまだ粗い段階で、「自社」の内部で「新しい結合(スパーク)」ができる余地が大きいものです。

そのためには、自社でアイデアの抽象化をすることです。アイデアの抽象化とは、その製品アイデアや技術がある市場を対象としていたものであれば、視点をずらし、すなわち抽象化をして、他の市場の製品を発想するということです。例えば、ある技術を活用して図書館用の製品を考えている企業があった場合、一度その製品、その技術の本質は何かを考えること(抽象化)をすることです。例えばその本質を抽象化し、盗難防止と見極めれば、他の市場、例えば物流や店舗に使えるという発想をすることが重要となります。

(浪江一公)