Top
> メルマガ:『価値づくり』の研究開発マネジメント

 

『価値づくり』の研究開発マネジメント

第110回:「既存コア技術強化のためのオープン・イノベーション:研究者の抵抗を払拭する」

(2015年7月7日)

 

セミナー情報

 

前回から、「既存コア技術強化のためのオープン・イノベーション」について議論をしていますが、今回はその中で、研究者の既存コア技術強化へのオープン・イノベーションへの導入の抵抗をどう払拭したら良いかについて、議論したいと思います。

●オープン・イノベーションへの抵抗理由:研究者へのインパクトが見えない

研究者に限らず企業の社員は、会社の新しい取組に対しては、まずは抵抗します。そのため、まずオープン・イノベーションにも否定的な反応をとります。その理由には以下があります。

○研究を生業に生きている研究者への直観的な脅威

オープン・イノベーションは技術を含む外部のアイデアを社内に取り込みましょう、ということですので、研究を生業としている研究者にとっては、自分達の存在価値への脅威と考えても不思議はありません。特に前回から議論しているのは、「既存」のコア技術の強化ですので、まさにこの領域は、日々の研究者の活動領域そのものです。自社にない領域の技術であれば納得感はありますが、自分達の活動のコアの分野ですので、抵抗はより大きくなるものです。

○見えないが故の抵抗

上のような直観的な脅威があることもあり、オープン・イノベーションという横文字言葉の活動には、具体的に自分達の活動へのインパクトが見えない段階では、とりあえず抵抗しておこうということになります。これは人間のごく自然の対応です。

●オープン・イノベーションは研究者の活躍の場や視野を広げるもの

従って、企業の視点だけではなく、研究者にとってオープン・イノベーションはどういう意味があるのかをきちんと説明し、理解を求める必要があります。そして、現実的には既存コア技術の強化のための(その他の目的のオープン・イノベーションも同様の効果がありますが)オープン・イノベーションは以下のように、研究者により広い活躍の場や視野を与えるものとして十分説明し、納得してもらう必要があります。

○オープン・イノベーションは研究者の活動対象領域を広げる

市場の変化・ニーズに合わせてコア技術を強化しなければなりませんが、コア技術を対象としたオープン・イノベーションでは、外部から導入された技術は組織の中に強みとして内部化されます。その結果、当該技術を使ったより多くの製品群が市場に投入され、また隣接した周辺には新たな研究対象分野が広がります。そのため、研究者としての存在価値が損なわれるどころか、その存在価値はより高まることになります。

○導入技術の評価には研究者が保有する知識は必須

すでに社内の研究者は、そのコア技術分野の知見を深く保有していますので、補強すべき技術についての高い評価能力を持っています。まさに研究者の知識が積極的に生かされる場が拡大します。

○研究者の知識や視野が拡大する

海外を含め外部の技術や研究者・技術者に触れる機会が増え、その結果研究者の知識が拡大し、そしてその視野も大きく広がります。このような効果は、長期的には当然組織に大きなインパクトを与えます。

(浪江一公)